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世界初、光学顕微鏡で三次元分子解像度を実現 ―生命現象の分子レベル画像化に期待―

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要点

  • 一つ一つの生体分子の三次元位置をそのサイズと同等の解像度で観察可能に。
  • 手作り光学顕微鏡だからできた世界最高の解像度。
  • 鮮明な画像の鍵は超流動ヘリウムとその中で使える反射対物レンズ。

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の古林琢大学院生、本橋和也氏(元大学院生)、松下道雄准教授、藤芳暁助教らは、可視光のみで1個の分子の三次元位置をオングストローム(1オングストロームは0.1ナノメートル)の精度で決定することに成功した。この精度は現存する最高性能の光学顕微鏡である超解像蛍光顕微鏡(2014年ノーベル化学賞)を1桁しのぎ、分子を見分けられるレベル(分子解像度)に達している。

生命現象は無数の分子が関わっている複雑な系であり、試験管の中では再現できない。このため、生命現象の解明には、生体内部を直接観察することが不可欠である。しかし、人類は400年にわたり多種多様な顕微鏡を開発してきたが、生体内部を分子レベルで観察できるものはなかった。そこで、分子レベルの光イメージングを目標に、2004年から光学顕微鏡の独自開発をはじめ、ごく最近、これに成功した。現在は、生命現象の画像化に向けた研究をおこなっている。

本研究成果は2017年6月23日(米国時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で公開された。

研究成果

東京工業大学 理学院 物理学系の古林 琢大学院生、本橋和也氏(元大学院生)らは光学顕微鏡を用いて、一つ一つの分子の三次元位置を分子のサイズと同等の解像度(分子解像度)で決定することに世界ではじめて成功した。高い位置精度を実現するための鍵は、独自開発した超流動ヘリウム中で使える対物レンズである。このレンズを用いることで、極限の光学性能と優れた機械的安定性を持つクライオ蛍光顕微鏡の開発に成功し、本研究成果につなげた。

本研究はJST戦略的創造研究推進事業さきがけ(研究者:東工大 藤芳暁助教)の支援の元に行われ、東京工業大学の松下道雄准教授、若尾圭祐氏(元大学院生)、松田剛大学院生、林宣宏准教授、理研CLSTの喜井勲研究員、東京医科歯科大学の細谷孝充教授、京都大学の石川冬木教授、定家真人助教と共同で行った。

背景

生命現象には無数の分子が関わっており、その生体内部での振る舞いには様々なモデルが提唱されている。しかし、観察に適した顕微鏡が存在しなかったため、モデルを生命現象の解明につなげることは困難な場合が多い。例えば、生体試料を測定できる最も高解像度なクライオ透過電子顕微鏡では、高い解像度を出すためには試料を薄くスライスする必要があり、細胞全体を観察することができない。また、生体試料全体を見渡せる光学顕微鏡では、解像度が最も高い超解像蛍光顕微鏡(2014年ノーベル化学賞)でも分子レベルには1桁足りない。上記の2つの顕微鏡から、生体試料への応用性が高い光学顕微鏡に注目し、その弱点である低い解像度を克服することを目指した。

研究の経緯

光学顕微鏡の解像度の限界を決めるのは、被写体である生体分子の動きである。クライオ透過電子顕微鏡と同様に試料を-271 ℃まで冷却(超流動ヘリウム中)すれば、分子の動きが完全に凍結し、分子レベルの鮮明な画像が観察できるはずである。そこで、我々は極低温用の光学顕微鏡の開発を始めた。しかし、開発は予想以上に難しく、試行錯誤の繰り返しであった。例えば、機械的安定化である。顕微鏡の機械的安定性は、言うまでなく、解像度を基準に設計されている。このため、桁違いに高いオングストローム(1オングストロームは0.1ナノメートル)の解像度を実現するには、その機械的安定性を従来品に比べて桁違いに向上させなければならない。我々は安定化についての研究をおこない、試料と対物レンズを同一の環境に置くことが安定性に最も大切であることをあきらかにした。つまり、試料を-271 ℃に冷却するならば、対物レンズも同じ温度に冷却しなければならない。しかし、-271 ℃で使用できる高性能な対物レンズは存在しなかった。そこで、2004年から10年かけて、極低温下で動作して高性能な対物レンズを独自開発し、目標とするオングストロームの機械的安定性を実現した。このレンズ開発が終盤にさしかかった2014年10月からはJSTさきがけ(統合1細胞解析のための革新的技術基盤、研究総括 浜地格教授)からの様々な支援を受け、研究の速度が上がった。その結果、2016年8月5日、クライオ蛍光顕微鏡を用いて、色素1分子の三次元位置をオングストロームの精度で決定することに成功した。この解像度は既存の光学顕微鏡よりも1桁以上高く、分子を見分けられるレベル(分子解像度)に到達している。

図1は顕微鏡を作っている時の写真、図2は完成した顕微鏡の写真である。ちなみに図2は、通算19作目のクライオ蛍光顕微鏡である。図1で、古林院生が設置しているのが空間フィルターのユニットであり、堅牢なステンレスの箱中に光学系を組むことで、高い機械的安定性が実現している。さらに、図2のように、その他の光学系も同様なユニット化することで、顕微鏡のイメージ安定性を高めている。これらのユニットの設計、開発も独自に行ったものである。

最新の顕微鏡を制作する古林院生(2015年10月8日撮影)

図1. 最新の顕微鏡を制作する古林院生(2015年10月8日撮影)

完成したクライオ蛍光顕微鏡(2016年9月5日撮影)。古林院生、本橋院生が1年かけて顕微鏡を完成させた。通算19作目のクライオ蛍光顕微鏡である。写真は本研究が成功した直後に撮影した。

図2. 完成したクライオ蛍光顕微鏡(2016年9月5日撮影)

古林院生、本橋院生が1年かけて顕微鏡を完成させた。通算19作目のクライオ蛍光顕微鏡である。写真は本研究が成功した直後に撮影した。

開発したクライオ光学顕微鏡のもう一つの特長は、極限の光学性能である。これも上記の対物レンズが鍵となる。図3は開発した反射対物レンズの一部で、左から2代目、3代目、8代目のデザインの対物レンズである。右にいくほど性能が上がっていき、一番右のものは極限の光学性能を持っている。

2004年以来、開発してきた極低温用の反射対物レンズの一部。左から、2代目、3代目、8代目(当代)である。8代目は極限的な性能を持ち、数ケルビンから室温までのあらゆる温度で使用できるという唯一無二の性能を有している。
図3.
2004年以来、開発してきた極低温用の反射対物レンズの一部。左から、2代目、3代目、8代目(当代)である。8代目は極限的な性能を持ち、数ケルビンから室温までのあらゆる温度で使用できるという唯一無二の性能を有している。

今後の展開

生命現象には多くの謎が残されている。これは、生命現象が起こっている現場である細胞内を観察する方法が不足しているからである。本研究成果を元に、東工大物理の学生達と「生命現象の分子レベル画像化」を目指す。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society (Article)
論文タイトル :
"Three-Dimensional Localization of an Individual Fluorescent Molecule with Angstrom Precision"(オングストローム精度で一つ一つの蛍光分子の三次元位置を決定)
著者 :
古林琢、本橋和也、若尾圭祐、松田 剛、喜井勲、細谷孝充、林宣宏、定家真人、石川冬木、松下道雄、藤芳暁
DOI :

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理学院 ―真理を探究し知を想像する―
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スピネル型酸化物材料の原子観察に成功 ―超伝導材料やリチウムイオン電池の高性能化に向けて大きな一歩―

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概要

東北大学 材料科学高等研究所(AIMR)の岡田佳憲助教と一杉太郎連携教授 (東京工業大学 物質理工学院 教授)、東京大学の安藤康伸助教(現 産業技術総合研究所 研究員)、渡邉聡教授らのグループは、超伝導材料や電池材料として知られているスピネル型酸化物LiTi2O4の表面について、その原子配列と電子状態を解明することに成功しました。

LiTi2O4は興味深い物質として知られています。スピネル構造の金属酸化物[用語1]としては唯一の超伝導体で、比較的高い超伝導転移温度を示します(超伝導転移温度 13ケルビン(マイナス260 ℃))。しかし、原子レベルで平坦な試料を作ることが難しく、表面における超伝導状態は、原子スケール分解能では調べられていませんでした。また、この物質は、リチウムイオン電池材料の候補としても知られています。リチウムイオン電池では、充放電の際に、リチウムイオンが電極表面を必ず通過します。したがって、電極表面の原子配列が、電池性能に極めて大きな影響を与えます。しかし、金属酸化物電極表面の原子配列は未解明で、さらなる性能向上に向けて、原子レベルでの理解が必要です。そこで本研究グループは高品質なLiTi2O4薄膜を作製し、走査型トンネル顕微鏡(STM)[用語2]を用いて表面の原子配列を調べ、コンピュータシミュレーション結果と比較しました。その結果、最表面にチタン原子が周期的に並んでいることや、表面の超伝導性が固体内部とは異なっていることを明らかにしました。以上、3つの元素からなるスピネル構造について、原子像観察、構造決定、そして、電子状態評価にはじめて成功しました。このような研究から、超伝導現象の起源や、電解質との界面がどのように形成されているのか理解が深まり、新超伝導体開発やリチウムイオン電池特性向上へつながることが期待されます。

本研究成果は、2017年7月3日(月)18時(日本時間)に、米科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。

研究の背景と経緯

LiTi2O4は非常に興味深い物質です。スピネル構造の金属酸化物としては唯一の超伝導体(超伝導転移温度 13ケルビン(マイナス260 ℃))である上、リチウムイオン電池用材料としても知られています。そして、その「表面」を理解することが極めて重要です。

超伝導の観点では、昨今、極めて薄い、シート状超伝導体の物性に関心が集まっています。したがって、表面電子状態の解明は、新たな機能をもつ表面や界面、あるいは極薄新物質の創出につながります。しかし、表面における超伝導状態を、原子スケール分解能で調べることが困難でした。その理由として、LiTi2O4の大型単結晶作製が難しいことや、劈開(へきかい)[用語3]ができないことが挙げられます。そのため、その表面原子を観察することができませんでした。

さらに、リチウムイオン電池の観点からも表面が重要です。さらなる高性能化を実現するため、リチウムイオンが電極内に出入りする過程を原子レベルで理解することが喫緊の課題です。しかし、電極材料として利用されている金属酸化物については前述のように表面処理が難しく、原子配列や電子状態の議論が困難でした。

そこで、本研究グループではLiTi2O4表面における原子配列の解明に挑み、最表面にはチタン原子が三角格子状に並んでいることを明らかにしました。さらに、電子状態の詳細を明らかにすることに成功しました。

研究の内容

本研究グループは、原子1つ1つが識別可能な走査型トンネル顕微鏡(STM)と、高品質な薄膜作製手法であるパルスレーザー堆積法[用語4]が連結した複合装置を独自に開発してきました(図1)。そして、SrTiO3単結晶基板上にLiTi2O4エピタキシャル薄膜[用語5]を作製し、一度も大気に触れさせずにSTMを用いてその表面を原子スケール空間分解能で観察しました。大気に触れさせないことで、非常にきれいな表面を維持しつつ観察したことがポイントです。その上で、計算機シミュレーション結果と比較しました。

走査型トンネル顕微鏡とパルスレーザー堆積装置を連結した、世界唯一のシステムの全体構成図。

図1. 走査型トンネル顕微鏡とパルスレーザー堆積装置を連結した、世界唯一のシステムの全体構成図。

図2にLiTi2O4薄膜のSTM像を示します。広い範囲を観察すると、非常に平坦な表面、すなわち、テラスが広がっていることがまずわかります(図2a)。そして、ところどころに高さが低く、暗く表示されている部分があります。平坦な部分を拡大してみると、周期的な輝点が明瞭に観察され(図2b)、三角格子状に輝点が並んでいることがわかりました。さらにこの三角格子を拡大すると、輝点は約0.6 nm(ナノメートル)間隔でした(図2c)。

LiTi2O4の走査型トンネル顕微鏡(STM)像。(a)広い範囲での観察像。平坦な表面が観察され、さらに、部分的に暗い箇所が存在する。(b)平坦な箇所を拡大した像。三角格子が観察されていることがわかる。(c)輝点の間隔は0.6 nm程度である。すべてのSTM像は4ケルビンで観察した。また、図中の白線の長さは、(a)2 nm、(b) 0.8 nm、(c)0.3 nmを示す。

図2.
LiTi2O4の走査型トンネル顕微鏡(STM)像。(a)広い範囲での観察像。平坦な表面が観察され、さらに、部分的に暗い箇所が存在する。(b)平坦な箇所を拡大した像。三角格子が観察されていることがわかる。(c)輝点の間隔は0.6 nm程度である。すべてのSTM像は4ケルビンで観察した。また、図中の白線の長さは、(a)2 nm、(b) 0.8 nm、(c)0.3 nmを示す。

考えられる結晶構造モデルについて第一原理計算を行い、STM像のシミュレーション結果と実験結果を比較検討しました。その結果、チタンで覆われている場合には、計算結果と実験結果が一致しました。一方、表面が酸素で覆われている場合、実験結果が再現できないことがわかりました。このことより、図2で観察された輝点は、チタン原子であることがわかりました(図3)。このような3つの元素からなるスピネル構造については、はじめての原子像観察と構造決定となります。また、表面上の暗い部分はリチウムが欠損していると考えられます。

(a)実験と計算から明らかになった表面原子配列の断面図。青、緑、赤の球は、それぞれ、チタン、リチウム、酸素原子を示す。薄青と薄緑の面は、TiO6八面体とLiO4四面体の面を示す。(b)走査型トンネル顕微鏡(STM)像のシミュレーション結果。図2(c)のような像が再現できていることがわかる。

図3.
(a)実験と計算から明らかになった表面原子配列の断面図。青、緑、赤の球は、それぞれ、チタン、リチウム、酸素原子を示す。薄青と薄緑の面は、TiO6八面体とLiO4四面体の面を示す。(b)走査型トンネル顕微鏡(STM)像のシミュレーション結果。図2(c)のような像が再現できていることがわかる。

さらに、本研究により、超伝導状態の電子状態も明らかになりました。精密な電子状態評価から超伝導ギャップやコヒーレンス長などの物性値が、表面では内部と異なることが見出されました。具体的には、表面における超伝導ギャップが予想より小さく、さらに、コヒーレンス長が予想よりも長いという実験結果が得られました。

今後の展開

以上より、LiTi2O4について、表面の原子配列、および、電子状態が明らかになりました。この系ではチタンの電子同士の強い相互作用が考えられ、今後ナノスケールで起きる物理についても調べていく予定です。そして近年、極薄の超伝導体に関する物性に関心が集まっており、このような表面電子状態の解明は、新たな機能をもつ表面や界面の創出につながります。

さらに、電極表面における原子配列構造の理解は、リチウムイオン電池研究をさらに活発化させると考えられます。たとえば、従来は、現実に存在するのかわからない表面構造をもとに計算機シミュレーションをしなければなりませんでした。しかし、今回の結果から「実在する表面構造」が明らかになったため、それを土台にして、より精緻なシミュレーションが可能になります。今後は、リチウムイオンがこの表面上でどのように拡散し、どの場所から電極内に入っていくのかというプロセスについて解明し、精緻な材料設計技術の発展が期待されます。

付記事項

本研究成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「新物質科学と元素戦略」(研究総括:細野秀雄)研究課題名「酸化物エレクトロニクスのパラダイムシフトを目指したアトムエンジニアリング」(平成22年~25年度、研究者:一杉太郎)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製」(研究総括:瀬戸山亨)研究課題名「界面超空間制御による超高効率電子デバイスの創製」(平成27年~32年度、研究者:一杉太郎)の支援を受けて、また一部は科学研究費補助金・基盤研究(A)「LaAlO3/SrTiO3ヘテロ構造の原子スケール電子状態(26246022)」、科学研究費補助金・新学術領域研究(研究領域提案型) 公募研究(26108702、26106502)、科学研究費補助金・若手(A)「鏡面対称性と強い電子相関がもたらす新奇なトポロジカル量子現象の分光イメージング(25886004)」、科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究「原子分解能で見る酸化物薄膜のバックゲート誘起による強相関・トポロジカル量子相転移(26610093)」、科学研究費補助金・基盤研究(B)「界面原子・分子層における局所電界効果の理論計算(15H03561)」の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] 金属酸化物 : 金属原子と酸素原子が結合して得られる化合物です。構成元素と構造が多様であることから、幅広い物性を示し、様々な応用先があることが魅力です。そのうちの一つとしてLiイオン電池の電極材料が挙げられます。また、次世代の電子素子への応用も期待されています。

[用語2] 走査型トンネル顕微鏡(STM) : 原子レベルで鋭い針を試料表面に数ナノメートルの距離まで近づけ、針と試料間に電圧をかけると、量子力学的なトンネル電流が生じます。このトンネル電流を一定に保つように針の高さを制御して、試料表面上で針を動かすことによって原子像を得る装置が走査型トンネル顕微鏡です。トンネル電流は試料の電子状態に依存するので、表面構造だけでなく電子状態も原子レベルの空間分解能で調べることができます。

[用語3] 劈開(へきかい) : 物質がある一定の方向に容易に割れて、平滑な表面ができることをいいます。

[用語4] パルスレーザー堆積法 : 集光した紫外レーザー光を原料ターゲットに照射し、蒸発して飛び出した原子や分子種を基板上に薄膜として蒸着する方法です。高品質な酸化物薄膜作製が可能であるという利点があります。また、1原子層ずつ堆積していくため、望みの原子を望みの順序で積み上げ、新しい物質を合成することが可能です。

[用語5] エピタキシャル薄膜 : ある結晶の上に、それとは異なる結晶を一定の結晶方位関係をもって成長することを指します。両者の結晶構造や格子定数をうまく組み合わせることによって、良質なエピタキシャル薄膜の成長が実現します。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Scanning tunnelling spectroscopy of superconductivity on surfaces of LiTi2O4(111) thin films
著者 :
Yoshinori Okada, Yasunobu Ando, Ryota Shimizu, Emi Minamitani, Susumu Shiraki, Satoshi Watanabe, and Taro Hitosugi
DOI :

物質理工学院

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物質理工学院

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お問い合わせ先

(研究内容に関すること)

東北大学 材料科学高等研究所(AIMR) 連携教授

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
一杉太郎 教授

E-mail : hitosugi.t.aa@m.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2636

東京大学 大学院工学系研究科 渡邉聡 教授

E-mail : watanabe@cello.t.u-tokyo.ac.jp

Tel : 03-5841-7135

取材申し込み先

東北大学 材料科学高等研究所(AIMR)
広報・アウトリーチオフィス 清水修

E-mail : aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp

Tel : 022-217-6146

東京大学 大学院工学系研究科 広報室

E-mail : kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp

Tel : 03-5841-1790 / Fax : 03-5841-0529

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

7月の学内イベント情報

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7月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?」

サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?」)

サイエンスカフェの舞台は皆さんの腸内です。

生命理工学院の山田拓司准教授と生命理工学系の学生が、腸内細菌の仕組みをボードゲームを使って、遊びながら学べる企画です。

日時
7月1日(土) 13:30 - 15:30
場所
参加費
無料
対象
一般(小学3年生~中学3年生向け 保護者同伴可)
申込
必要

第34回先端光量子科学アライアンスセミナー

第34回先端光量子科学アライアンスセミナー

「光と物質の相互作用」をテーマに、第34回先端光量子科学アライアンスセミナーを開催いたします。 大学生から社会人の方まで、奮ってご参加ください。

日時
7月4日(火) 13:55 - 16:50
場所
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
不要

2017年度大田区民大学(第20回東工大提携講座)「生物とその多様性」

2017年度大田区民大学(第20回東工大提携講座)「生物とその多様性」

今年も、恒例の大田区と提携した区民大学が開催されます。私たちが長い年月の環境変化の中で、今日生きているのは、生命の多様さ・生命を育む場の多様さと多彩なつながり=生物多様性があればこそです。国連が2011年から2020年を「国連生物多様性の10年」と設定して、その折り返し点となった今年のテーマは、「生物とその多様性」です。今一度、生命科学・分子生物学や環境問題など、生物多様性とその根源をめぐる最新の研究を学んでみませんか?

日時
5月31日(水)、6月7日(水)、6月14日(水)、6月21日(水)、6月28日(水)、7月5日(水)
各日19:00 -
場所
参加費
無料
対象
原則として区内在住・在勤・在学の16歳以上の方
申込
必要

夏のワークショップ2017「声に出してシェイクスピア-悲劇編その1『マクベス』-」(全5回)

夏のワークショップ2017「声に出してシェイクスピア-悲劇編その1『マクベス』-」(全5回)

気鋭の若手シェイクスピア研究者、小泉勇人准教授の解説を聞きつつ、俳優の下総源太朗さんとともに四大悲劇のひとつ『マクベス』の台詞を読んでみます。下総源太朗さんは、昨年の新国立劇場での『ヘンリー四世』にも出演され、シェイクスピア没後400年シンポジウム「歴史劇の現場から」にも講師として登壇いただきました。全体のコーディネートは、英国現代劇を専門とし、演劇評論家でもある谷岡健彦教授が行います。シェイクスピアの面白さは声に出してこそ実感できるものです。

日時
7月6日(木)、20日(木)、8月3日(木)、24日(木)、31日(木)(全5回)
各回とも18:00~20:00。1回のみの受講も可能。
場所
参加費
1回1,000円、全回通し4,000円(本学学生および教職員は無料)
対象
本学学生、教職員、一般
申込
必要

CERI寄附公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心―身の回りから先端科学まで―」(2017年前期)

CERI寄附公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心―身の回りから先端科学まで―」(2017年前期)

本講座では前期の講義として、私たちの身の回りにある化学品を含むゴムやプラスチックとその製品の安全・安心に関する情報とやさしい科学を、 一般の方にもわかりやすく紹介します。更に後期の講義では、少し高度な内容として、最先端の安全性評価技術、劣化と寿命予測技術、耐性向上技術、高性能・高強度化技術 ・材料に関する科学を紹介し、将来の安心・安全な材料・製品設計の基礎を学べるようにします。

日時
2017年6月3日(土)、6月17日(土)、6月24日(土)、7月15日(土)、7月22日(土)、7月29日(土)、8月5日(土)
各日13:20 - 14:50、15:05 - 16:35
場所
参加費
無料(「追加資料代」として1,000円(全14講議分)が掛かります。初回受講時に申し受けます。)
対象
一般
申込
必要

夏休み親子工作教室 ―自分だけの「カンカラ三線!」を作ろう―

夏休み親子工作教室 ―自分だけの「カンカラ三線!」を作ろう―

ものつくり教育研究支援センター(すずかけ台分館)では、毎年夏休みに親子で一緒に工作をすることを通してものつくりの楽しさを知ってもらおうと、夏休み親子工作教室を開催しています。昨年は、オリジナルタンバリンを作ろうと題して行いました。今年は、音の不思議さを知ってもらうために、弦楽器に注目し、「自分だけの『カンカラ三線!』を作ろう」と題して、空き缶を使って沖縄の三線を作ります。小学生と大人、2名1組で行います。

日時
7月27日(木) 10:00 - 15:00
場所
参加費
1組300円(保険料込み)
対象
小学生とその保護者(小学生1名+保護者1名で一組とする)
申込
必要

一部締め切りを過ぎているものがございますが、取材をご希望の場合はご連絡ください。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

超高圧下で安定な新しい水酸化鉄の発見

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超高圧下で安定な新しい水酸化鉄の発見
―地球深部の水の循環モデルに関する論文がNatureに掲載―

研究の背景

地球表層の7割は海に覆われていますが、地球内部に貯蔵できる水の質量は海水の数倍とも見積もられています。そのため、水は地球の表層だけでなく地球の内部でも重要な成分の1つであり、地球の進化に多大な影響を及ぼしていると考えられています。しかしながら、地球内部における具体的な水の存在量とその循環はいまだ謎が多く、さまざまな研究が進められています。

地球表層に存在する水は岩石と反応して含水鉱物[用語1]を作ります。この含水鉱物はプレートの沈み込みにより、水を地球深部のマントル[用語2](深さ30-2,900キロメートル)へと運ぶことが知られています。ただし、マントルは高温高圧の環境なので、沈み込みに伴う温度や圧力の上昇によって、ある深さで含水鉱物が分解・脱水します。もし含水鉱物が分解せずに安定して存在できる温度と圧力条件が分かれば、水が地球深部のどの深さまで運ばれるかを理解することができます。

本研究グループは、マントルの主要元素[用語3]であるマグネシウムとシリコン(ケイ素)を多く含み、下部マントルで安定な含水鉱物 「H相[用語4]」を理論予測と超高圧実験により発見し、2014年にNature Geoscience誌に発表しました。H相の合成は、その後国内外複数の研究グループにより再現・確認され、マグネシウムやシリコンがその他のマントルの主要元素であるアルミニウムや鉄と置き換わることも知られてきました。アルミニウムを含むH相はマントル深部の圧力下でも分解しないため、核とマントルの境界(深さ2,900キロメートル)での上昇流(プルーム[用語5])の発生や地震波超低速度層[用語6]の起源、また核の溶融鉄への水の溶け込みなど、様々な影響を及ぼす可能性が議論されています。

一方で、2016年のNature誌で発表された研究結果では、鉄を多く含む含水鉱物(化学式FeOOH、以下水酸化鉄)はマントル深部条件下で水素と酸化鉄に分解すると報告しています。沈み込むプレートを構成する岩体が鉄をどの程度含むかは場所や時代により異なりますが、この先行研究によると、特に鉄を多く含む縞状鉄鉱層[用語7]はマントル深部に水を運ぶことができないということになります。さらに、この水酸化鉄の分解は、地球全体の酸素濃度にも関わり、それが過去の地球表層環境に影響したとも考えられています。

以上の背景や先行研究を踏まえ、本研究では理論計算と先端技術を用いた実験により、水酸化鉄の超高圧下での安定性の再検討を試みました。

研究手法と成果

愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の西真之助教、桑山靖弘助教(現 東京大学 大学院理学系研究科)、土屋旬准教授、土屋卓久教授の研究グループ(西、土屋旬、土屋卓久は東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)兼務)は、第一原理計算[用語8]に基づく数値シミュレーションとレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル[用語9]を用いた実験により、水酸化鉄の高温高圧下でのふるまいを調べました。

スーパーコンピュータ「京」[用語10]や愛媛大学設置の並列計算機を用いて得られた数値シミュレーションの結果は、地下1,900キロメートル付近に対応する80万気圧において、水酸化鉄がパイライト[用語11]型と呼ばれる構造に変化することを示唆しました。この結果は、水酸化鉄はマントル深部で水素と酸化鉄に分解するという過去の研究結果と異なります。この結果を受けて、本研究グループはダイヤモンドアンビルセルによる高圧発生技術と、大型放射光施設SPring-8[用語12]の高圧構造物性ビームラインBL10XUに設置されたレーザー加熱システムと放射光X線を使用し、約150万気圧までの条件で水酸化鉄の結晶構造を調べました。実験結果は、理論予測されたものと同様、80万気圧程度で水酸化鉄の構造がパイライト型へと変化することを示しました。さらに様々な温度圧力条件下で測定した試料の体積は、パイライト型構造中の水素の含有を強く示唆しました。このように、水酸化鉄が水素を維持しつつパイライト型構造へ変化するという第一原理計算による理論的予想が、複数の証拠を含めた高度な実験により証明されました。

本研究結果は、水酸化鉄が地球マントル深部環境で水素と酸化鉄に分解するという従来の学説を覆す発見であり、いまだに解明されていない地球深部における水の循環を明らかにするための新たな知見となると期待されます。本研究結果によると、水は地表からマントルと地球中心核の境界付近の2,900キロメートル程度の深さまで運ばれる可能性があります。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、マントル最下部でのマグマの発生を引き起こし、マントル最下部で観測される地震波超低速度層やこの付近に起源をもつマントル上昇流(プルーム)などの原因になっている可能性があります。また、地球中心核の主要物質である溶融鉄への水の溶け込みなど、地球深部の物質や運動の解明において重要な影響を及ぼすものと考えられます。

今後の展望

今回の研究では、水酸化鉄の構造がマントル深部領域でパイライト型構造に変化し、水が地球中心核とマントルの境界まで運ばれる可能性を示しました。今後更に研究を進めることで、水酸化鉄と周囲のマントル・地球中心核の物質との反応現象を理解することができるかもしれません。これらの結果で得られる情報は、地球内部の水の存在量とその循環を知る上での新たな知見となります。

本研究グループによる理論計算では、アルミニウムを多く含む含水鉱物も、地球マントル条件より高い圧力下でパイライト型へと結晶構造が変化することを予測しています。今後の実験技術の進展により、このような極限環境下で安定な含水鉱物の存在が実証されると、天王星・海王星のような氷惑星や、近年の観測技術の発展により次々と報告されている太陽系外惑星の内部における水の存在形態の研究は飛躍的に進展すると期待されます。

成果のポイント

  • マントル深部(深さ1,900 km以深)の超高圧環境(80万気圧)で安定な水酸化鉄の発見
  • 水酸化鉄は下部マントル深部の圧力下において脱水分解するという従来の学説を覆す発見
  • 超低速度層、プルームの発生、核への水の溶け込みなど、マントルと核の境界付近における様々な現象に影響
  • 第一原理計算による理論的予想が、実験によって実証的に確定された貴重な科学的成果
  • 超高圧技術と放射光実験を組み合わせた、高精度な実験

関連分野の研究者

東京大学 大学院理学系研究科 附属地殻化学実験施設

名誉教授 八木健彦

E-mail : yagi@eqchem.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4624

東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻/物理学科

教授 常行真司

E-mail : stsune@phys.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4127

備考

なお、本研究は、文部科学省科学研究費補助金(課題番号: JP15H05469, JP15H05829, JP15H05834, JP16H06285, JP25220712, JP26287137, JP26400516, JP26800274)、SPring-8一般研究課題(課題番号: 2014B1364, 2016A1476)、文部科学省ポスト「京」萌芽的課題「基礎科学の挑戦-複合・マルチスケール問題を通した極限の探求」(課題番号: hp160251, hp170220)の一環として実施したものです。

用語説明

[用語1] 含水鉱物 : 蛇紋石や水酸化物等、水素を主成分の一つとして含む鉱物。特に地球内部の高圧下で安定なH相やδ-AlOOHは、プレートの沈み込みにより水を地球マントル深部にもたらすと考えられている。

[用語2] マントルと核 : 地球は薄い地殻(深さ約30キロメートルまで)、マントル(深さ30-2,900キロメートル)、核 (2,900-6,400キロメートル)の3層からできている。マントルはかんらん岩などの岩石が主な成分であるのに対し、核は主に鉄からできている。

[用語3] マントルの主要元素 : マントルは酸素、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、鉄、カルシウムがその成分の大半を占める。

[用語4] H相 : 含水鉱物の一つで、下部マントル深部において存在可能な唯一の含水ケイ酸塩鉱物と考えられている。本GRC研究グループにより、2013年にその存在の理論的予測、2014年に超高圧実験による最初の合成が報告された。

[用語5] プルーム : 沈み込む冷たいプレートやマントル物質に対して、マントル深部から上昇してくる高温の上昇流。アフリカや太平洋下部においては、深さ2,900キロメートルの核-マントル境界から上昇する巨大なスーパープルームの存在も地震学的に明らかになっている。発生部分では部分的に岩石が融けている可能性もある。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、プルームの発生において重要な要因となる。

[用語6] 地震波超低速度層 : マントル最下部と核との境界付近に見られる、地震波の伝わる速さが非常に遅い領域。岩石であるマントルと溶けた鉄との化学反応や、マントル物質の部分的溶融などの原因が考えられている。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、このような低速度層を形成する上で重要な要因となる。

[用語7] 縞状鉄鉱層 : 先カンブリア紀(地球誕生から約6億年前までの期間)の海底に堆積した酸化鉄や水酸化鉄を含む堆積鉱床。鉱床の生成原因は、当時の無酸素状態の海水に大量に溶解していた鉄イオンが、なんらかの要因で生じた酸素分子によって酸化されて海底に沈殿したものと考えられている。プレートの運動により、その一部はマントル深部へと沈み込んだと考えられている。

[用語8] 第一原理計算 : 近代物理学の基礎である量子力学の基本原理に基づき、実験などにより得られる先験的なパラメーターを用いずに結晶構造の安定性や物性を予測する計算方法。最近の数値シミュレーション技術の進歩により高い精度での予測が可能になり、実験と相補的な役割を担っている。

[用語9] ダイヤモンドアンビルセル : 先端を平らに研磨した2個の単結晶ダイヤモンド製のアンビルに力を加え、その間に挟んだ試料に高い圧力を発生させる装置。地球の中心に相当する360万気圧と6,000 ℃の圧力・温度の発生が可能である(図1)。

ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置の加圧部

図1. ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置の加圧部
先端を平らに研磨した2個ダイヤモンドに試料を挟み、高い圧力を発生させる。

[用語10] スーパーコンピュータ「京」 : 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理化学研究所と富士通株式会社が共同で開発を行い、2012年9月に共用を開始した計算速度10ペタFLOPS級のスーパーコンピュータ。

[用語11] パイライト : 黄鉄鉱。鉄と硫黄からなり、化学組成はFeS2で表される。今回発見された新しい水酸化鉄はパイライトと結晶構造が同型であり、硫黄が酸素と置き換わり、かつ水素を含むものである。

[用語12] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、高輝度光科学研究センターが運転と利用者支援等を行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波(放射光)を用いて幅広い研究が行われている。

参考

新しいパイライト型水酸化鉄(FeOOH)の結晶構造

図2. 新しいパイライト型水酸化鉄(FeOOH)の結晶構造
大(八面体中心の茶)、中(赤)、小(ピンク)の球はそれぞれ鉄原子、酸素原子、水素原子。

パイライト型水酸化鉄が出現する温度圧力条件

図3. パイライト型水酸化鉄が出現する温度圧力条件
地下約1,900キロメートルに相当する80万気圧で
水酸化鉄の結晶構造が青領域の低圧型から赤領域のパイライト型へと変化する。

地球内部構造と今回の研究から示唆される地球深部への水の輸送

図4. 地球内部構造と今回の研究から示唆される地球深部への水の輸送
下部マントルに沈み込んだプレート内では、水酸化鉄の構造がパイライト型に変化し、
さらに中心核付近まで水を運ぶことが可能であると考えられる。

論文情報

掲載誌 :
Nature
論文タイトル :
The pyrite-type high-pressure form of FeOOH
著者 :
西真之、桑山靖弘、土屋旬、土屋卓久
DOI :

お問い合わせ先

研究に関して

助教 西真之

E-mail : nishi@sci.ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8153, 090-9579-5653

准教授 土屋旬

E-mail : tsuchiya.jun.my@ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8152

教授 土屋卓久

E-mail : tsuchiya.taku.mg@ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8198

助教 桑山靖弘(現 東京大学 大学院理学系研究科)

E-mail : kuwayama@eps.s.u-tokyo.ac.jp

愛媛大学 総務部 広報課

E-mail : koho@stu.ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-9022

愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)

E-mail : grc@stu.ehime-u.ac.jp
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東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

国立大学法人 東京大学 大学院理学系研究科・理学部

特任専門職員 武田加奈子、学術支援職員 谷合純子、教授・広報室長 大越慎一

E-mail : kouhou@adm.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-0654

ELSIに関して

東京工業大学 地球生命研究所 広報担当

E-mail : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

SPring-8/SACLAに関して

公益財団法人 高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp

スーパーコンピュータ「京」に関して

理化学研究所 計算科学研究推進室(広報グループ)

E-mail : aics-koho@riken.jp

複雑なピーナッツ型分子の作製に初成功

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複雑なピーナッツ型分子の作製に初成功
―2種類の化学結合を活用してコアシェル構造を簡便合成―

要点

  • W型有機分子と金属イオンから、3ナノメートルのピーナッツ型分子を作製
  • 2種類の化学結合を利用した、複雑なコアシェル構造の簡便合成法を開発

概要

本学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の吉沢道人准教授と山梨大学 工学部の矢崎晃平特任助教らは、ピーナッツの種と殻が作る複雑な立体構造である「コアシェル構造」を再現するため、新たに合成した有機分子と金属イオンを集合させる方法で、ナノメートルサイズのピーナッツ型分子の合成に初めて成功した。複雑なナノ構造体を簡便かつ精密に作製する新手法として、今後の研究展開が期待される。

植物は、花や果実、種子などの複雑な立体構造をいとも簡単に作り出している。例えばピーナッツは、ダンベル型の殻(から)の内部に2つの種(たね)を含むユニークな階層構造を持つ。しかし、自然界に存在するこのような複雑なかたちを人工的に化学合成した例はない。本研究では、新たな合成戦略によるピーナッツ型分子の作製に挑戦した。まず、3つの金属結合部位を有する“W”字の形をした有機分子を新規に合成した。このW型分子と金属イオンは溶液の中で、「配位結合」を駆動力として自発的に集合し、分子ダブルカプセルを定量的に形成した。このダブルカプセルは、2つのナノ空間(約1ナノメートル)を持つ。次に、この溶液にフラーレンC60を添加することで、「π-スタッキング相互作用」を駆動力として、中央の金属イオンの脱離を伴い、2つのフラーレンを内包したピーナッツ型構造体が定量的に生成した。また、他のフラーレン誘導体を用いた場合もピーナッツ型分子が得られた。すなわち、性質の異なる2種類の化学結合を組み合わせることで、複雑な植物構造体を模倣合成する新手法を開発した。

これらの成果は、インド工科大学マドラス校のDillip K. Chand教授、株式会社リガクとの共同研究によるもので、英国科学誌Nature Publishing Groupの「Nature Communications」のオンライン版に、2017年6月28日付けで掲載された。

研究の背景とねらい

近年、動物の「うごき」を模倣した分子(=分子機械:2016年ノーベル化学賞 ジャン・ピエール・ソバージュ教授ら)や植物の「かたち」を模倣した分子の効率的な合成方法の開発が注目されている。しかし、植物に関しては、既存の有機化学または無機化学の手法では、花や果実、種子などに見られる複雑な立体構造を再現することは不可能とされてきた。これらの魅力的な「かたち」の中でも、ピーナッツ(図1左)は、ダンベル型の殻(から)に2つの種(たね)を内包したユニークなコアシェル構造からなる。このような特殊な階層構造を、ナノメートルサイズで化学合成した例はこれまでにない。今回、性質の異なる2種類の化学結合(配位結合[用語1]π-スタッキング相互作用[用語2])を同時に利用することで、ピーナッツ型構造体(図1右)を作製することに初めて成功した。

ピーナッツの種と殻とピーナッツ型分子の設計図

図1. ピーナッツの種と殻とピーナッツ型分子の設計図

研究内容

分子ダブルカプセルの合成:まず、パネル状の多環芳香族骨格[用語3]を有するブロモアントラセンを出発原料にして、根岸カップリング反応と鈴木-宮浦カップリング反応[用語4]を含む6段階の反応で、3つの金属結合部位(ピリジル基)を有するW型の有機分子を新規に合成した(図2上)。このW型分子は、多環芳香族骨格による立体障害で、10種類の構造異性体[用語5]を持つ(図2下)。

W型有機分子とその10種類の構造異性体(Rはメチル基に置換)

図2. W型有機分子とその10種類の構造異性体(Rはメチル基に置換)

次に、W型分子の異性体混合物と金属イオン(Pdイオン)を4:3の比率で有機溶媒(DMSO)に加え、その混合溶液を加熱攪拌した。その結果、金属イオンの配位結合を駆動力としてW型分子は1つの立体構造に収束し、分子ダブルカプセル1が定量的に生成した(図3上)。この三次元構造は、核磁気共鳴分光法、質量分析およびX線結晶構造解析により決定した。結晶構造解析の結果、ダブルカプセル1は、合計8つのアントラセン環に囲まれた約1ナノメートルの孤立空間を2つ有するダンベル型構造であることが明らかになった(図3下)。

分子ダブルカプセル1とそのX線結晶構造解析(正面および側面;Rは省略)

図3. 分子ダブルカプセル1とそのX線結晶構造解析(正面および側面;Rは省略)

分子ピーナッツの合成:分子ダブルカプセル1に球状のフラーレンを混合することで、ピーナッツ型構造体の作製に成功した。ダブルカプセル1のDMSO溶液にフラーレン C60の固体を加えて、加熱攪拌した。その結果、1の中央の金属イオンが脱離し、アントラセン環とC60のπ-スタッキング相互作用により、2分子のC60が内包されたピーナツ型分子2が定量的に形成した(図4上;合成ルート1)。質量分析から、生成物の分子量は約8,000 Daで、8成分から成る分子集合体の一義的な生成が明らかになった。その構造の理論計算から、多環芳香族骨格からなるダンベル型の殻内に2つのC60が近接したコアシェル構造であることが判明した(図4下)。外殻の横幅と縦幅はそれぞれ、約3ナノメートルと2ナノメートルであった。

分子ピーナッツ2の合成(ルート1および2)とその計算構造

図4. 分子ピーナッツ2の合成(ルート1および2)とその計算構造

このピーナッツ型分子は、分子ダブルカプセルを経由せず、W型分子と金属イオンとC60の混合溶液からも、1段階の反応で合成できた(図4上;合成ルート2)。この場合、配位結合とπ-スタッキング相互作用が同時に作用することで、選択的に分子ピーナッツが形成した。

種の違う分子ピーナッツ:ピーナッツ型構造体は、球状のフラーレン C60だけでなく、サイズが若干大きく、ラグビーボール状のフラーレン C70や金属を内包したフラーレン Sc3N@C80を用いても、同様に合成することに成功した。内部のフラーレンに起因して、分子ピーナッツは赤褐色を示した。得られたコアシェル構造体は、室温(高温でも)、空気中で安定なため取り扱いが容易であった。

今後の研究展開

本研究では、性質の異なる2種類の化学結合を活用することで、ピーナッツの複雑な階層構造をナノメートルサイズで合成することに初めて成功した。今後は、多種類の化学結合をさらに巧みに使い分けることで、自然界のより複雑な「かたち」を分子レベルで自由自在に合成できる手法の開発を目指す。

用語説明

[用語1] 配位結合 : 金属イオンと孤立電子を持つ有機分子の間に働く化学結合。水素結合のような可逆性のある結合。

[用語2] π-スタッキング相互作用 : 2つ以上の多環芳香族骨格の面間に働く化学結合。可逆性のある結合。

[用語3] 多環芳香族骨格 : 複数のベンゼン環が縮環した平面状構造。アントラセンは、長方形の多環芳香族骨格を持つ有機分子。

[用語4] 根岸および鈴木カップリング反応 : 2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸英一先生および鈴木章先生らによって開発されたパラジウム触媒を利用した有機合成反応。炭素と炭素を連結する方法。

[用語5] 構造異性体 : 分子の構成成分は同じで、結合の位置や結合の方向が異なる構造体。今回のW型分子では、位置は同じで、方向が異なる。この異性体は高温条件(加熱)で平衡状態になる。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications (英国科学誌; Nature Publishing Group)
論文タイトル :
Polyaromatic Molecular Peanuts
(多環芳香族骨格からなる分子ピーナッツ)
著者 :
Kohei Yazaki, Munetaka Akita, Soumyakanta Prusty, Dillip Kumar Chand, Takashi Kikuchi, Hiroyasu Sato, and Michito Yoshizawa*
(矢崎晃平・穐田宗隆・サムヤカンタ プラティ・ディリップ クマール チャンド・菊池貴・佐藤寛泰・吉沢道人
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
吉沢道人 准教授

E-mail : yoshizawa.m.ac@m.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5284 / Fax : 045-924-5230

山梨大学 工学部 応用化学科(大学院総合研究部)
矢崎晃平 特任助教

E-mail : kyazaki@yamanashi.ac.jp

Tel : 055-220-8144

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

振動発電の高効率化に新展開:強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見

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名古屋大学 大学院工学研究科(研究科長:新美智秀)兼 科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明(やまだ ともあき)准教授らの研究グループは、物質・材料研究機構 技術開発・共用部門の坂田修身(さかた おさみ)ステーション長、東京工業大学 物質理工学院の舟窪浩(ふなくぼ ひろし)教授、愛知工業大学 工学部の生津資大(なまづ たかひろ)教授、静岡大学 電子工学研究所の脇谷尚樹(わきや なおき)教授、スイス連邦工科大学 ローザンヌ校 材料研究所のNava Setter(ナバ・セッター)名誉教授らの研究グループと共同で、振動発電の効率向上につながる強誘電体[用語1]材料の新たな特性制御手法を発見しました。

代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛の膜を、イオンビームで細い棒(ナノロッド)状に切り出すと、そのサイズによって強誘電体の特性を支配する分極の向きの割合(ドメイン構造)が大きく変化することが明らかになりました。この結果は、強誘電体の表面における分極の電荷遮蔽の影響で説明できますが、これは上記のナノロッドが同じサイズであっても、その側面を金属で被覆すると、ドメイン構造が変化することにより証明されました。

本研究成果は、従来から行われてきた材料組成や歪みの制御といったアプローチではなく、材料の形状やサイズ、さらには周りの環境により、電荷遮蔽を制御することで、強誘電体の特性向上が実現する可能性を示しています。この新しいアプローチを応用することで、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の効率向上による小型化が期待でき、Internet of Things(IoT)[用語2]で期待される振動センサや圧力センサの自立的な電源として利用できる可能性があります。

この研究成果はネイチャー・パブリッシング・グループの学術誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」オンライン版に7月12日付(日本時間18:00)で公開されました。

ポイント

  • 強誘電体の諸特性を支配する分極の向きの割合(ドメイン構造)が、材料の形状やサイズ、さらには周りの環境で変化することを初めて系統的に明らかにした。
  • 上記のドメイン構造が変化する原因が、分極の電荷遮蔽の影響であることを突き止めた。
  • 本アプローチを応用することで、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の飛躍的な効率向上につながる可能性がある。

研究背景と内容

現在、自然界にある未使用のエネルギーを電気エネルギーに変換する技術が盛んに研究されています。強誘電体には、優れた機械エネルギーと電気エネルギーの相互変換機能(圧電性)を示す材料があり、これを使用して、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の開発が行われています。

圧電性を始めとする強誘電体の諸特性は、その分極の向きの割合(ドメイン構造)に大きく左右されることが知られています。これまで、材料の組成や歪みを制御することでドメイン構造を操作し、これにより特性を向上させようという試みが広く行われてきました。一方で、材料の表面や界面における分極電荷の遮蔽状態もドメイン構造に影響を及ぼすことが知られていましたが、系統的な研究例は少なく、これによるドメイン構造の操作指針は明らかにされていませんでした。

そこで、名古屋大学を中心とする研究グループでは、強誘電体材料をナノサイズ化すると電荷遮蔽の影響が大きくなることに着目し、特にその中でも異方性が大きな棒状の“ナノロッド”を対象に研究を行いました。

ナノロッドの作製とドメイン構造の解析

サイズが正確に制御されたナノロッドを作製するために、まず、代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の膜を基板上に作製し、集束イオンビーム[用語3]を用いて膜の一部をエッチングすることで、高さが1.2マイクロメートル、幅が最小で200ナノメートル(1万分の2ミリ)のナノロッド形状に切り出しました。その後、エッチングのダメージを取り除くために、加熱処理を行いました。

次に、高輝度な放射光[用語4]X線をレンズで集光してナノロッドに照射することで、ナノロッド1本のX線回折[用語5]測定に成功しました(図1)。本測定システムは、物質・材料研究機構のグループで開発されました。これにより、ナノロッドのドメイン構造を定量的に明らかにすることに成功しました。

放射光マイクロX線回折測定のセットアップと試料の概要。放射光X線をレンズで集光してナノロッドに照射し、ロッド1本(単体)の回折測定を行った。
図1.
放射光マイクロX線回折測定のセットアップと試料の概要。放射光X線をレンズで集光してナノロッドに照射し、ロッド1本(単体)の回折測定を行った。

ナノロッドのサイズ制御によるドメイン構造の操作

サイズの異なるロッドのドメイン構造を比較した結果、幅の減少とともにcドメインと呼ばれる垂直分極の領域の割合が増加し、一方で、aドメインと呼ばれる水平分極の領域の割合が減少することがわかりました。この変化の傾向は、基板の種類が異なっても同じでした。また、集束イオンビームを用いずに別の手法で作製した自己組織化ナノロッドでも、これを支持する結果が得られました。(図2(a))

これらの結果は、強誘電体の分極電荷の遮蔽が不完全な環境では、ロッドの幅が狭くなるに従ってロッド側面に分極電荷を有する水平分極が不安定になるためと考えられ、電荷遮蔽を考慮したシミュレーションの結果とも一致しました。(図2(b))

特に、幅1マイクロメートル(1,000ナノメートル)未満のロッドではcドメインの割合が100%になりました。一般に、電圧や応力などの外場の印加なしに、分極が完全に一方向に揃ったドメイン構造を作製することはできませんが、ナノサイズ化した強誘電体では、その形状やサイズの制御により、分極方向を揃えられることを初めて見出しました。

(a)ナノロッドの幅と垂直分極を有するcドメインの割合の関係。基板の種類の違いによらず、幅の減少に伴いcドメイン割合が増加した。(b)幅2マイクロメートル及び200ナノメートルのロッドのドメイン構造のシミュレーション結果の例。
図2.

(a)ナノロッドの幅と垂直分極を有するcドメインの割合の関係。基板の種類の違いによらず、幅の減少に伴いcドメイン割合が増加した。

(b)幅2マイクロメートル及び200ナノメートルのロッドのドメイン構造のシミュレーション結果の例。

ナノロッドの外界制御によるドメイン構造の操作

上記の考えが正しければ、ナノロッドの電荷遮蔽を促進すると、aドメイン(水平分極)の割合が増えるはずです。そこで、ナノロッドの側面を金属で被覆して、一度加熱してドメインを消去した後、新たに生成したドメイン構造を観察しました。その結果、aドメインの割合が増加することが明らかになり(図3)、シミュレーションとも傾向が一致しました。このことは、ナノロッドの周りの環境(外界)を制御することでドメイン構造が操作できることを示しています。

ナノロッドの側面を金属(Pt)で被覆し、一度加熱した後のドメイン構造のX線回折結果。電荷遮蔽の促進によって、aドメイン(水平分極)の生成が確認できた。

図3.
ナノロッドの側面を金属(Pt)で被覆し、一度加熱した後のドメイン構造のX線回折結果。電荷遮蔽の促進によって、aドメイン(水平分極)の生成が確認できた。

成果の意義

本研究成果は、強誘電体の諸特性を支配するドメイン構造が、材料の組成や歪みの制御だけでなく、材料の形状やサイズ、さらには、その周りの環境により、分極の電荷遮蔽状態を制御することで、操作できることを示しています。

この新しいアプローチを活用して、強誘電体の圧電特性の飛躍的な向上が達成できれば、例えば、環境中にある微小な振動を効率良く電気エネルギーに変換する小型のエナジーハーベスタの実現が期待でき、Internet of Things(IoT)に代表されるような、数億から数兆個の利用が想定されるセンサの自立的な電源として利用できる可能性があります。特に、電源機能を兼ねた振動センサや圧力センサへの応用が期待できます。さらには、環境適合性やコストの観点から、使用できる材料の元素が限られる用途において、特性向上のアプローチとして利用できる可能性があります。

特記事項

本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ「ナノシステムと機能創発」領域および「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」領域、日本学術振興会 科学研究費、科学技術振興機構 国際科学技術共同研究推進事業「Concert-Japan光技術を用いたものづくり」の一環として行われました。また、ドメイン構造解析はSPring-8のBL15XUおよびBL13XUのビームラインで行われました。主な結果はBL15XUでの測定によるもので、文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題として、物質・材料研究機構微細構造解析プラットフォームの支援を受けて実施されました。

用語説明

[用語1] 強誘電体 : 圧電体の一種で、自発分極を有しており、外部からの電場で分極の向きが反転可能な結晶です。

[用語2] Internet of Things(IoT) : モノのインターネットと言われ、一般に、様々なモノ(デバイス)がインターネットに接続され、相互につながることを指します。

[用語3] 集束イオンビーム : 細く集束したイオンビームを試料表面で走査することで、試料表面を加工する装置です。本研究ではガリウムイオンビームを使用しました。

[用語4] 放射光 : 電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のことです。本研究の実験は、兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設SPring-8で行われました。

[用語5] X線回折 : 物質に照射されたX線が回折を起こす現象で、これにより物質の結晶の構造やその配向を調べる事ができます。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Charge screening strategy for domain pattern control in nano-scale ferroelectric systems
(日本語訳:強誘電体ナノスケールシステムにおけるドメインパターン制御のための電荷遮蔽)
著者 :
Tomoaki Yamada, Daisuke Ito, Tomas Sluka, Osami Sakata, Hidenori Tanaka, Hiroshi Funakubo, Takahiro Namazu, Naoki Wakiya, Masahito Yoshino, Takanori Nagasaki, and Nava Setter
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

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お問い合わせ先

(研究に関すること:全般)

名古屋大学 大学院工学研究科 エネルギー理工学専攻
山田智明 准教授

E-mail : t-yamada@energy.nagoya-u.ac.jp

Tel : 052-789-4689 / Fax : 052-789-4961

(放射光X線回折に関すること)

物質・材料研究機構 技術開発・共用部門
高輝度放射光ステーション ステーション長
先端材料解析研究拠点シンクロトロンX線グループ グループリーダー
坂田修身

E-mail : SAKATA.Osami@nims.go.jp

Tel : 0791-58-1970

(作製に関すること)

東京工業大学 物質理工学院
舟窪浩 教授

E-mail : funakubo.h.aa@m.titech.ac.jp

Tel / Fax : 045-924-5446

愛知工業大学 工学部機械学科
生津資大 助教

E-mail : kyazaki@yamanashi.ac.jp

Tel : 055-220-8144

静岡大学 電子工学研究所
脇谷尚樹 教授

E-mail : wakiya.naoki@shizuoka.ac.jp

Tel / Fax : 053-478-1153

(報道対応)

名古屋大学 総務部 広報渉外課

E-mail : kouho@adm.nagoya-u.ac.jp

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科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp

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E-mail : pressrelease@ml.nims.go.jp

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E-mail : d-koho@aitech.ac.jp

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静岡大学 総務部 広報室

E-mail : koho@adb.shizuoka.ac.jp

Tel : 054-238-5179 / Fax : 054-237-0089

反芳香族分子の電子伝導性を単分子レベルで実証 ―芳香族の20倍以上高く、電子素子などへの応用に期待―

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要点

  • π電子の数が4n個である反芳香族分子の電子伝導性を単分子レベルで計測。
  • 類似構造の芳香族分子と比較して反芳香族分子は20倍以上高い伝導性を示す。

概要

東京工業大学 理学院 化学系の藤井慎太郎特任准教授、木口学教授、名古屋大学大学院工学研究科の忍久保洋(しのくぼ ひろし)教授らのグループは、反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで計測することに世界で初めて成功した。類似の構造をもち、π電子[用語1]の数が4n+2個である芳香族分子と比較して、反芳香族分子は20倍高い伝導性を示した。また電気化学の力をかりて、反芳香族分子の伝導性をさらに1桁近く向上させることも実現した。

走査型トンネル顕微鏡(STM)[用語2]を用いて、STM探針と金基板の間に1分子の反芳香族分子ノルコロール[用語3]をはさみこむことで、単一の反芳香族分子の電気伝導度を決定した。反芳香族分子の優れた電子伝導性が単分子レベルで明らかとなったことにより、反芳香族分子を用いた微小電子デバイス、有機エレクトロニクス、電池への利用が期待できる。

反芳香族分子とは平面構造を有する環状のπ分子であり、分子物性を決定づける分子内に広がったπ電子を4n個もつ。反芳香族分子は高い反応性、電子伝導性を示すことが期待される一方、天然には存在しない不安定な化合物で、その伝導性はこれまで明らかではなかった。

研究成果は2017年7月19日発行の英科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」に掲載された。

背景

π電子は分子の伝導性や磁性など分子物性の源である。このπ電子が環状に並んだπ分子では、その構造的な特徴から図1に示すように、最低のエネルギー位置に1つの分子軌道[用語4]、その上にエネルギーの等しい分子軌道が2つずつ並んでいる。1軌道あたり電子を2個収容できるため、π電子の数が4n+2 (n:0を含む正の整数)の時に安定となる。この4n+2個のπ電子をもつ環状分子の性質を芳香族性といい、芳香族分子は香料、染料、電子材料など身の回りの様々なところで利用されている。

これに対し、π電子が4n個の反芳香族分子は、天然には存在しない不安定な分子である。一方、不安定であるということは、逆に高い反応性、優れた電子伝導性、特異な磁気的性質を示すことが期待でき、電池材料などへの応用も期待されている。しかしながら、反芳香族分子は、その高い反応性から単離が難しく、分子レベルで反芳香族分子の高い伝導性を実証した研究は行われていなかった。

環状π分子の分子軌道エネルギー。芳香族分子であるベンゼンの例(n=1)。

図1. 環状π分子の分子軌道エネルギー。芳香族分子であるベンゼンの例(n=1)。

研究成果

図2に、名古屋大学の忍久保教授らのグループにより合成された16個のπ電子を含む反芳香族分子ノルコロールの分子構造を示す。金基板との接着性をよくするため分子の両端に硫黄原子を導入している。反芳香族分子ノルコロール、比較対象として類似の構造をもつ18個のπ電子を含む芳香族分子ポルフィリンについて、STMを用いて単分子計測を行った。

ノルコロール(反芳香族分子)およびポルフィリン(芳香族分子)の分子構造

図2. ノルコロール(反芳香族分子)およびポルフィリン(芳香族分子)の分子構造

室温で分子を含む溶液に金基板を浸漬させることで、金表面上に分子を吸着させた。STM探針を、分子を吸着させた基板にぶつけて、引き離すプロセスを繰り返し、探針を引き離す際の電気伝導度計測を行った。探針を基板にぶつけることで、金接点が探針と基板間に形成される。探針を引き離すことで、金接点が破断し、分子スケールのギャップが形成される。表面上に吸着した分子がギャップまで拡散し、針と基板間のギャップを架橋することで分子接合が形成される。さらに探針を引き離すことで、架橋分子数が1つずつ減少し、最終的には1つの分子を架橋させることができる。

図3に計測した単分子の伝導度計測結果を示す。図は探針を引き離す際の電気伝導度をヒストグラムの形で表現したもので、ピーク値が最も高頻度で観測される単分子の電気伝導度に対応する。反芳香族分子の伝導度は4.2×10-4G0、芳香族分子の伝導度は1.7×10-5G0だった。ここで、G0量子化コンダクタンス[用語5](2e2/h=77.5μS)であり、金1原子の電気伝導度に対応する。以上の計測から、反芳香族分子が芳香族分子と比較して20倍近く伝導性が高いことが分かった。世界で初めて反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで実証することに成功した。

ノルコロールとポルフィリン単分子電気伝導度の計測結果。数1,000個の伝導度計測結果を積算してヒストグラムの形で表示している。ピーク値が最も代表的な単分子伝導度に対応。
図3.
ノルコロールとポルフィリン単分子電気伝導度の計測結果。数1,000個の伝導度計測結果を積算してヒストグラムの形で表示している。ピーク値が最も代表的な単分子伝導度に対応。

さらに、反芳香族分子の高い電子伝導性の起源を実験的に明らかにするために、電極間電圧を連続的に変化させ、単分子を流れる電流を計測した。単分子の電流―電圧特性は、伝導を担う分子軌道が一つであることを仮定すると、分子軌道と金属電極のフェルミ準位[用語6]のエネルギー差を求めることが出来る。図4(a)に反芳香族分子ノルコロール、図4(b)に芳香族分子ポルフィリンの電流―電圧特性、図4(c)に実験的に決定したそれぞれの分子におけるエネルギー関係を示す。

芳香族分子のポルフィリンでは分子軌道がフェルミ準位から0.8 eVの位置にあるのに対し、反芳香族分子であるノルコロールでは0.5 eVと、フェルミ準位に、より近い位置にあることが分かる。

単分子を流れる電子は、分子軌道とフェルミ準位のエネルギー差に相当する障壁を感じて伝導する。このことから、反芳香族分子の方が障壁が低く、効率的に電子を伝導したことになる。並行して、第一原理計算[用語7]に基づいた電子輸送シミュレーションを行い、実験的にもとめた電子状態、伝導特性を定量的に再現することができた。

(a)ノルコロールおよび(b)ポルフィリン単分子の電流―電圧特性。計測結果を散布図の形で表示。(c)単分子の電流―電圧特性から求めたAu電極に架橋した単分子の電子状態。LUMO(最低空軌道)の位置を表示している。
図4.
(a)ノルコロールおよび(b)ポルフィリン単分子の電流―電圧特性。計測結果を散布図の形で表示。(c)単分子の電流―電圧特性から求めたAu電極に架橋した単分子の電子状態。LUMO(最低空軌道)の位置を表示している。

反芳香族分子の高い電子伝導性が明らかになったので、さらに伝導特性を向上させるため、電気化学を利用することで伝導度の変調を試みた。電気化学では、電気化学電位により電極のフェルミ準位を上下させ、分子軌道とフェルミ準位のエネルギー差を制御することが出来る。図5(b)に反芳香族分子ノルコロールの単分子電気伝導度の電気化学電位依存性を示す。負電位にすることで、伝導度が1桁近く増大した。負電位にすることで金属電極のフェルミ準位が上昇し、分子軌道に近づいた。これにより、電子の感じる障壁が下がり、伝導性を向上させることができた。

(a)電気化学系における単分子伝導度計測の概念図。金属電極のフェルミ準位を分子軌道に対して相対的に変えることが出来る。(b)ノルコロール単分子電気伝導度の電気化学電位依存性
図5.
(a)電気化学系における単分子伝導度計測の概念図。金属電極のフェルミ準位を分子軌道に対して相対的に変えることが出来る。(b)ノルコロール単分子電気伝導度の電気化学電位依存性

今後の展開

反芳香族分子は、高い伝導性を示すことが期待されていたが、反芳香族分子の不安定性のため研究は進んでいなかった。本研究により、反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで実証することに初めて成功した。今後、反芳香族分子の優れた電子特性を電池や電子素子などへ応用することが期待される。

単分子に素子機能を賦与する単分子素子は、シリコン電子素子に替わり得る次世代微小電子素子として注目を集めている。現在、様々な単分子素子が開発されつつあるが、そのほとんどで芳香族分子が使われており、伝導性はあまり高くない。今回、反芳香族分子を用いることで、伝導性の高い単分子素子を作る道筋を切り開くことが出来た。今後、微小電子素子における結線材料としての応用が期待できる。

用語説明

[用語1] π電子 : π結合をつくっている電子。二重結合の一方はσ結合,もう一方はπ結合である。σ電子はσ結合をつくり、原子どうしを連結させて分子骨格を形づくるのに対し、π電子は分子の発色、発光、電子物性、磁性などの電子的性質を担う。

[用語2] 走査型トンネル顕微鏡(STM) : 金属の探針で導電性の基板をなぞることで、表面形状を原子レベルで観測することができる顕微鏡。金属探針と基板の間に電圧を与えた状態で、探針を基板に数nm以下に近づけると、探針と基板間の間に電流(トンネル電流)が流れるようになる。トンネル電流は探針と基板の間の距離に敏感に変化するので、電流の変化を計測することで、表面の凹凸を原子レベルで計測することが可能である。

[用語3] ノルコロール : 4n+2個のπ電子をもつ芳香属性ポルフィリンから2つの炭素(2つのπ電子)を取り除いた4n個のπ電子をもつ反芳香族性分子。一般に反芳香族性分子は非常に不安定であるが、ノルコロールニッケル錯体は空気中で安定に取り扱い可能な世界初の16π電子反芳香族化合物である。

[用語4] 分子軌道 : 原子軌道の相互作用により新たにできた分子内に広がった軌道。

[用語5] 量子化コンダクタンス(G0 : 導線の大きさが原子スケール(フェルミ波長程度)まで小さくなると、導線を流れる電子の伝導度がG0=2e2/hを単位として量子化される。eは電子の電荷、hはプランク定数である。

[用語6] フェルミ準位 : 軌道に電子をつめていって、電子によって占められた軌道のうちで最高の軌道のエネルギーを示す。0 K(絶対零度)においては化学ポテンシャルと一致する。

[用語7] 第一原理計算 : 実験データや経験パラメーターを使わない理論計算。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Highly-conducting molecular circuits based on antiaromaticity
著者 :
Shintaro Fujii1, Santiago Marqués-González1, Ji-Young Shin2, Hiroshi Shinokubo2, Takuya Masuda3, Tomoaki Nishino1, Narendra P. Arasu4, Héctor Vázquez4, Manabu Kiguchi1
所属 :

1Department of Chemistry, Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology, Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8551, Japan

2Department of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Aichi 464-8603, Japan

3Global Research Center for Environment and Energy Based on Nanomaterials Science (GREEN), National Institute for Materials Science (NIMS), Tsukuba 305-0044, Japan

4Institute of Physics, Academy of Sciences of the Czech Republic, Cukrovarnicka 10, Prague CZ-162 00, Czech Republic

DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に発足した理学院について紹介します。

理学院

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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系
特任准教授 藤井慎太郎

E-mail : fujii.s.af@m.titech.ac.jp

教授 木口学

E-mail : kiguti@chem.titech.ac.jpp
Tel : 03-5734-2071 / Fax : 03-5734-2071

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超イオン導電特性を示す安価かつ汎用的な固体電解質材料を発見 ―全固体リチウムイオン電池の実用化を加速―

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要点

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の菅野了次教授らの研究グループは、全固体リチウムイオン電池(以下、全固体電池)の実用化を加速させる新たな固体電解質を発見した。菅野グループでは、2011年にイオン伝導率が高い固体電解質であるLGPS物質系[用語3]を発見し、2016年にはその派生の固体電解質材料を発見している。しかし、これらは高価な元素であるゲルマニウム(Ge)を用いたり、塩素(Cl)などを用いた特異な組成に限られており、電気化学的な不安定性も課題であった。新電解質は、スズ(Sn)やケイ素(Si)という単独では十分な性能を発揮できない元素を組み合わせて組成し、液体の電解質に匹敵する11 mScm-1のイオン電導率を示す超イオン伝導体[用語4]である。新電解質の発見に際しては、擬似三成分系と呼ばれる相図中で材料探索を行うことにより、十分な性能を持つ電解質の開発が可能であり、その組み合わせによって既存材料の課題を解決するさらなる電解質の発見もあり得ることを提示した。全固体電池のキーテクノロジーとなる固体電解質の物質群の多様性を拡大することで、全固体電池設計の幅も大きく広がり、実用化が加速すると期待される。

これらの成果は、2017年7月10日に、米国科学誌「Chemistry of Materials」に掲載されました。

背景

電気自動車やスマートフォンなどを駆動するリチウムイオン電池の電解質には液体が使われており、容量、コスト、安全性などが課題となっている。このため、固体の電解質を開発し、高容量かつ高出力で安全性に優れた全固体型リチウムイオン電池を実現することが急務である。固体の電解質は液体の電解質に比べて電気の伝導率(イオン伝導率)が低く、その結果、固体電池は液系電池と比べて出力が低いことが課題とされていた。2011年に発見された固体電解質Li10GeP2S12(LGPS=リチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄)はイオン伝導率12 mScm-1と液体電解質に匹敵する伝導率を示し、2016年に発見したLiSiPSCl(リチウム・ケイ素・リン・硫黄・塩素)はイオン伝導率25 mScm-1を示す超イオン伝導体である。しかし、これらの固体電解質は、レアメタルであるゲルマニウムが必要であったり、特異な組成が必要であり、4種類の材料のみに限られていた。また、電気的安定性にも課題があり、固体電解質のさらなる開拓により材料の多様性を確保する必要があった。

研究成果

本研究ではLGPS系物質においてゲルマニウム系を凌駕するイオン伝導率の実現を目指した。スズ(Sn)およびケイ素(Si)を組成し、それぞれ単独では達成出来なかった11 mScm-1を持つイオン伝導率を示す超イオン伝導体Li-Sn-Si-P-S(LSSPS):Li10.35[Sn0.27Si1.08]P1.65S12 (Li3.45[Sn0.09Si0.36]P0.55S4)を発見した。

今回の超イオン伝導体の長所は、合成しやすく、熱安定性が高い点である。また、大気下での安定性が高いこと、柔らかく、加工しやすいこと、電気化学的な安定性が高いことなどの長所を備えている。

さらに、スズとケイ素を組み合わせることで、広いLGPS相の生成組成域を実現したため、新たな材料の発見も期待できる。すなわち、

  • 合成過程で組成がずれても安定して超イオン伝導体であるLGPS型固体電解質ができるので、品質のばらつきが生じにくい。
  • 組成のチューニングが可能で、今後、全固体電池の様々な用途の拡大とともに明らかになる様々な固体電解質の要求性能に対応しやすい。

といった特徴がある。

このように、スズ、ケイ素の系は超イオン導電特性を示す新しい固体電解質として有望である。また、Li3PS4-Li4SiS4- Li4SnS4擬似三成分系で材料探索を行い、今後とも優れた固体電解質材料の種類を拡大できる。

Li3PS4-Li4SnS4-Li4SiS4擬似三成分相図中で新規材料探索を行い、Li10GeP2S12(LGPS)型の生成領域が明らかになった。Sn系、Si系と比べて広い組成範囲でLGPS型相が形成し、組成最適化により、11 mScm-1のイオン伝導率を示す新材料が見出された。高価なGe含有系、Li-Si-P-S-Clの特異的な組成に加えて、安価なSn-Siからなる新しい超イオン導電体は、全固体リチウム電池の実現に向けた有力な電解質材料の候補として期待できる。

参考図表 Li3PS4-Li4SnS4-Li4SiS4擬似三成分相図中で新規材料探索を行い、Li10GeP2S12(LGPS)型の生成領域が明らかになった。Sn系、Si系と比べて広い組成範囲でLGPS型相が形成し、組成最適化により、11 mScm-1のイオン伝導率を示す新材料が見出された。高価なGe含有系、Li-Si-P-S-Clの特異的な組成に加えて、安価なSn-Siからなる新しい超イオン導電体は、全固体リチウム電池の実現に向けた有力な電解質材料の候補として期待できる。

研究の経緯

同研究グループは、全固体電池が、既存のリチウム電池と比較して、優れた特性を有することを示すため、優れた特性をもつ固体電解質を探し、電解質と電極材料の組み合わせを最適化することで全固体電池の高出力特性等を実証してきた。今回、超イオン伝導体として高いイオン伝導率を期待できる硫化物系で、さらに新規物質の探索を行った結果、スズ、ケイ素を含む固溶体からなる高性能な固体電解質を見いだした。

今後の展開

本研究で得たLi-Sn-Si-P-S系のLGPS物質群は安価な構成元素からなる新材料で、固溶域も広く、最大で10 mScm-1を超える超イオン導電性能を示す。これにより、高価なGe系や、緻密な組成制御が必要なLi-Si-P-S-Cl系から、超イオン導電体の多様性を大きく広げた。四価カチオンの組み合わせにより、固溶領域が広がり、イオン伝導率も向上することは、組み合わせの最適化により既存のLGPS材料に含まれる元素を用いた開発の余地が充分に残されていることを提示している。また、Sn系硫化物は大気安定性に優れると言う報告もあり、LGPS材料の不安定性を解決するような材料設計が提案できる可能性がある。元素組み合わせや、組成比の最適化にはマテリアルズインフォマティクス[用語5]によるアプローチも適しており、全く新しい材料発見にいたる可能性もある。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の先端的低酸素化技術開発事業(ALCA)のALCA次世代蓄電池(ALCA-SPRING:ALCA-Specially Promoted Research for Innovative Next Generation Batteries)の一環として、実施されたものである。

用語説明

[用語1] イオン伝導率 : 10 mScm-1(1センチメートル当たり10ミリジーメンス。ジーメンスは抵抗の単位Ωの逆数で、電流の流れやすさを示す。現在のリチウムイオン電池の液体電解質のイオン伝導率は10 mScm-1程度。

[用語2] 全固体型リチウムイオン電池 : 電池の構成部材である正極、電解質、負極をすべて固体で構成した電池。

[用語3] LGPS物質系 : リチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄で構成される材料。Li10GeP2S12は12 mScm-1程度のイオン伝導率。これから派生して、硫化物系の物質としてLiSiPSClは25 mScm-1のイオン伝導率。

[用語4] 超イオン伝導体 : 固体中をイオンがあたかも液体のように動き回る物質。銀・銅イオン伝導体では0.5 Scm-1程度、リチウムイオン伝導体では1 mScm-1程度の値が最高のイオン伝導率とされてきた。特に、高エネルギー密度電池として期待されているリチウム超イオン伝導体で、イオン伝導率と安定性を兼ね備えた物質の開発が望まれていた。ポリマー、無機結晶、無機非晶質などの様々な分野で物質開拓が行われており、その開発は1960年代から始まり、現在も引き続き行われている。

[用語5] マテリアルズ・インフォマティクス : 計算科学、データ科学、合成・評価実験及びこれらの連携手法により膨大な数の物質の評価を行い、その結果に基づいて新物質や新機能を開拓することを目指したアプローチの総称。

論文情報

掲載誌
Chemistry of Materials
論文タイトル
Superionic Conductors: Li10+δ[SnySi1-y]1+δP2-δS12 with a Li10GeP2S12-type Structure in the Li3PS4-Li4SnS4-Li4SiS4 Quasi-ternary System
著者
Yulong Suna, Kota Suzukia, b, Satoshi Horib, Masaaki Hirayamaa, b, and Ryoji Kanno a, b *
DOI :
所属
a Department of Electronic Chemistry, Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama 226-8502, Japan
b Department of Chemical Science and Engineering, School of Materials and Chemical Technology, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama 226-8502, Japan

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
菅野了次 教授

E-mail : kanno@echem.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5401 / Fax : 045-924-5401

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


カビによる肝障害悪化メカニズムを解明 ―カンジダ菌は活性酸素を産生しタンパク質架橋酵素の核移行を招く―

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要点

理化学研究所(理研)ライフサイエンス技術基盤研究センター微量シグナル制御技術開発特別ユニットの小嶋聡一特別ユニットリーダー、ロナク・シュレスタ国際プログラム・アソシエイト(研究当時)と、加藤分子物性研究室の大島勇吾専任研究員、東京工業大学生命理工学院の梶原将教授らの共同研究グループは、肝臓に侵入した真菌(カビ)が活性酸素[用語1-1]、特にヒドロキシルラジカル[用語1-2]を作り、その酸化ストレス[用語2]を介して肝細胞死を引き起こす分子メカニズムを明らかにしました。

日本における肝がん(肝臓がん)の主な原因は、肝炎ウイルスの感染(いわゆるウイルス性肝炎)ですが、欧米ではアルコールの過剰摂取によるアルコール性脂肪性肝炎(ASH)[用語3-1]が大きなウエイトを占めています。さらに、近い将来には世界的にメタボリックシンドローム[用語4]の肝臓での表現型である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)[用語3-2] が主な原因になるといわれています注1。ASH/NASH患者においては、腸内に生息する病原性真菌の一種カンジダ菌が肝臓に到達することが報告されています注2。小嶋特別ユニットリーダーらの先行研究から、ASH/NASH患者の肝細胞では、通常は細胞質に存在するタンパク質架橋酵素「トランスグルタミナーゼ(TG2)[用語5]」が細胞核に局在することで肝細胞死を引き起こし、肝障害を悪化(増悪)させることが判明しています注3。しかし、肝臓に到達したカンジダ菌がこの病態形成機構に及ぼす影響は分かっていませんでした。

今回、共同研究グループは、病原性カンジダ菌と非病原性の酵母菌を、肝細胞と共培養しました。その結果、カンジダ菌は活性酸素、特にヒドロキシルラジカルを産生し、これを介して肝細胞におけるTG2の核局在と活性促進を招き、肝細胞死を引き起こすことが分かりました。同様の結果は、カンジダ菌を感染させたマウスの肝細胞においても観察されました。

今回の発見は、ASH/NASHの患者において観察される肝障害の新たな発症機構と想定されます。今後、TG2の核局在を標的とした肝障害を抑える新しい薬剤の開発につながる可能性があります。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Scientific Reports』のオンライン版(7月6日付け:日本時間7月7日)に掲載されました。

注1
日本肝臓学会「肝がん白書 平成27年版」PDF
注2
Yang A-M, Inamine T, Hochrath K, Chen P, Wang L, Llorente C, Bluemel S, Hartmann P, Xu J, Koyama Y, Kisseleva T, Torralba MG, Mncera K, Beeri K, Chen C-S, Freese K, Hellerbrand C, Lee SML, Hoffman HM, Mehal WZ, Garcia-Tsao G, Mutlu EA, Keshavarzian A, Brown GD, Ho SB, Bataller R, Stärkel P, Fouts DE, Schnabl B; Intestinal “fungi contribute to development of alcoholic liver disease.”, J Clin Invest 2017 Jun 30;127(7):2829-2841.
注3
2009年5月1日プレスリリース「タンパク質の架橋反応が細胞死を招き、アルコール性肝障害に」outer

共同研究グループ

理化学研究所

ライフサイエンス技術基盤研究センター 生命機能動的イメージング部門
イメージング応用研究グループ 微量シグナル制御技術開発特別ユニット

(左)小嶋聡一、(右)ロナク・シュレスタ
(左)小嶋聡一、(右)ロナク・シュレスタ

  • 特別ユニットリーダー 小嶋聡一(こじまそういち)
  • 国際プログラム・アソシエイト(研究当時)ロナク・シュレスタ(Ronak Shrestha)
  • 国際プログラム・アソシエイト(研究当時)ラジャン・シュレスタ(Rajan Shrestha)
  • 特別研究員 秦咸陽(しんせいよう)

加藤分子物性研究室

  • 専任研究員 大島勇吾(おおしまゆうご)

東京工業大学 生命理工学院

  • 教授 梶原将(かじわらすすむ)

千葉大学真菌医学研究センター

  • 准教授 知花博治(ちばなひろじ)

中国食品発酵工業研究院

  • 院長 蔡木易(さいもくい)
  • 主任研究員 魯軍(ろくん)

研究の背景

現在、日本における肝がん(肝臓がん)の主な原因は、肝炎ウイルスの感染(いわゆるウイルス性肝炎)ですが、欧米ではアルコールの過剰摂取によるアルコール性脂肪性肝炎(ASH)が大きなウエイトを占めています。さらに近い将来は、世界的にメタボリックシンドロームの肝臓での表現型である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が主な原因になるといわれています。ASHやNASHは、断酒や生活習慣の改善以外に有効な治療法は確立されておらず、その病態の解明や新薬の開発が課題となっています。

ASH/NASH患者においては、過度のアルコール摂取や遊離脂肪酸によって十二指腸のバリアがボロボロになり、腸内にいた真菌(カビ)や大腸菌が肝臓に到達することが報告されています。特に、病原性真菌の一種であるカンジダ菌が増えることが今年報告されました。2009年に小嶋特別ユニットリーダーらは、ASH/NASH患者の肝細胞では、通常は細胞質に存在するタンパク質架橋酵素トランスグルタミナーゼ(TG2)が細胞核に局在し、肝細胞の生存に必須の肝細胞増殖因子受容体c-Met[用語6]の発現をつかさどる転写因子Sp1[用語7]を過度に架橋結合[用語8]させて不活性化することで、肝細胞死を引き起こし肝障害を悪化(増悪)させることを報告しています。しかし、肝臓に到達したカンジダ菌がこの病態形成機構に及ぼす影響については不明でした。

研究手法と成果

肝臓への真菌感染のモデルとして、病原性カンジダ菌(カンジダアルビカンス Candida albicans もしくはグラブラータ Candida glabrata)をヒト肝細胞株であるHc細胞と共培養し、経過を観察しました。共培養を開始して24時間後にはTG2の核局在と活性化が観察され、さらに、共培養開始から48時間後には細胞死が誘導されました(図1)。一方、病原性のないパン酵母とHc細胞との共培養では、これらの現象は起こりませんでした(図2)。

次に、カンジダ菌が何を介して肝細胞に作用しているかを調べるため、TG2核局在の誘導が起きるための条件検討を行いました。低分子のみを透過させる透析膜を隔てて共培養した場合でもTG2核局在の誘導はみられましたが、熱で殺菌処理した菌体や、菌の培養上清液を肝細胞に投与すると同様の現象は起こりませんでした。このことから、生きたカンジタ菌が産生する半減期の短い低分子が肝細胞に作用していると考えられました。

活性酸素は、TG2を活性化させる因子の一つとして知られており、これらの条件に合致します。そこでヒドロキシルラジカルの原料となる過酸化水素を肝細胞に投与したところ、カンジダ菌と共培養した場合と同様の作用があることが分かりました。さらに、カンジダ菌との共培養時に、活性酸素を捕捉する抗酸化剤であるN-アセチルシステインを投与するとTG2核局在の誘導はブロックされました(図1)。

カンジダ菌との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)核局在

図1.カンジダ菌との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)核局在

ヒト肝細胞株Hc細胞の蛍光顕微鏡像。核はヘキスト(青)、活性化トランスグルタミナーゼはビオチン化基質5-(biotinamido)pentylamine(5BAPA)(緑)、細胞死の誘導はカスパーゼ活性(赤)の蛍光染色で観察した。Hc細胞をカンジダ菌と共培養すると、24時間後にTG2の発現誘導ならびに核局在(2段目2列目)、さらに48時間後にカスパーゼ3の誘導(2段目3列目)を伴う細胞死が観察された。このとき、抗活性酸素剤であるN-アセチルシステインを培養液中に添加して菌が産生する活性酸素をトラップすると、これらの変化を抑えることができた(3段目)。このことから、カンジダ菌が産生する活性酸素によって肝細胞においてTG2の発現と核局在が誘導され、肝細胞が細胞死に陥ることが示された。

パン酵母との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)

図2.パン酵母との共培養による肝細胞中のトランスグルタミナーゼ(TG2)

ヒト肝細胞株Hc細胞とカンジダ菌を共培養すると、24時間後にTG2の発現誘導ならびに核局在(2段目2列目)、が誘導されるが、カンジダ菌と同数のパン酵母(出芽酵母)と共培養しても、そのような変化はみられなかった(3段目2列目)。

カンジダ菌が活性酸素を介して肝細胞に作用する可能性をさらに検証するため、肝細胞での活性酸素の局在を蛍光顕微鏡で観察し、共培養液中に存在する活性酸素種の同定を電子スピン共鳴(ESR)[用語9]による解析で行いました。その結果、TG2核局在の誘導がみられる条件下でのみ活性酸素が核で顕著に検出され(図3)、そのときの培養液には活性酸素の一種ヒドロキシルラジカルが存在することが分かりました(図4)。このヒドロキシルラジカルがカンジタ菌に由来することは、ヒドロキシルラジカルを中心とした活性酸素の産生に働くNOX遺伝子[用語10]を欠損させた変異菌では同様の現象を誘導できなかったことからも示されました(図3、図4)。さらに、カンジダ菌を静脈注射したマウス個体を調べた結果、肝臓における活性酸素とTG2核局在の誘導が認められました。

以上の結果により、病原性真菌であるカンジダ菌は、活性酸素、特にヒドロキシルラジカルを産生し、その作用によって肝細胞内においてTG2の核局在を引き起こし、その結果として、転写因子Sp1の架橋不活性化を介する肝細胞死を引き起こすことを見いだしました(図5)。

肝細胞とカンジダ菌との共培養系における活性酸素の産生

図3.肝細胞とカンジダ菌との共培養系における活性酸素の産生

活性酸素、特にヒドロキシルラジカルと反応して蛍光を発する試薬CM-H2DCFDAを用いて、各条件下で8時間培養した後の活性酸素の産生量の様子を調べた結果。ヒト肝細胞株Hc細胞のみでは活性酸素の産生はみられなかった(1)が、病原性のあるカンジダアルビカンス菌(2)やカンジダグラブラータ菌(3)と共培養すると、活性酸素の産生が観察された。カンジダ菌と同数の病原性のないパン酵母(出芽酵母)(4)もしくは、ヒドロキシルラジカル産生に関わるNOX遺伝子を破壊したカンジダグラブラータ菌(5)と共培養しても、そのような変化はみられなかった。

肝細胞とカンジダ菌との共培養液中に存在するヒドロキシルラジカルの同定

図4.肝細胞とカンジダ菌との共培養液中に存在するヒドロキシルラジカルの同定

各条件下で8時間培養した後の培養液中のヒドロキシルラジカル量を、電子スピン共鳴によって半定量的に評価した結果。ヒト肝細胞株Hc細胞のみではヒドロキシルラジカルの産生はみられなかったが(左右)、カンジダアルビカンス菌(左)やカンジダグラブラータ菌(右)と共培養すると活性酸素の産生が観察された。カンジダ菌と同数のパン酵母(出芽酵母)(左)もしくは、活性酸素産生に関わるNOX遺伝子を破壊したカンジダグラブラータ菌(右)と共培養してもそのような変化はみられなかった。ヒドロキシルラジカルのスペクトル強度の比は、カンジダアルビカンス菌 10 : カンジダグラブラータ菌 3 : パン酵母菌 1であり、あるレベル以上のヒドロキシルラジカルが、肝細胞の核におけるトランスグルタミナーゼ活性誘導に働いていることが分かった。

病原性真菌であるカンジダ菌が肝細胞死を引き起こす分子メカニズム

図5.病原性真菌であるカンジダ菌が肝細胞死を引き起こす分子メカニズム

カンジダ菌は、活性酸素、特にヒドロキシルラジカルを産生し、その作用によって肝細胞内においてトランスグルタミナーゼ(TG2)の発現と核局在を誘導し、その結果として、肝細胞の生存に必須の肝細胞増殖因子受容体c-Metの発現をつかさどる転写因子Sp1の架橋不活性化を介する肝細胞死を引き起こす。

今後の期待

今回の発見により、ASH/NASHの患者における肝障害が、病原性真菌の産生する活性酸素を介して増悪する新たな発症機構の存在が浮かび上がりました。活性酸素を抑制する薬剤の投与により肝細胞でのTG2の核移行を阻害するなど、TG2の核局在を標的とした肝障害を抑える新たな治療法の開発が期待できます。

用語説明

[用語1-1] 活性酸素 [用語1-2] ヒドロキシルラジカル : 活性酸素は、普通の酸素に比べて著しく反応性が増した原子状態の酸素や電子状態が不安定な酸素分子をいう。生体内では白血球の殺菌作用など多くの生理現象に関与する。細胞を直接的あるいは間接的に傷つけ、老化の一因を作る。活性酸素の分子種のうち最も反応性が高く、最も酸化力が強いのが、ヒドロキシルラジカル(ヒドロキシ基=水酸基に対応するラジカル)で、•OHと表される。

[用語2] 酸化ストレス : 生体内で酸化還元状態の均衡が崩れたとき、過酸化水素やヒドロキシルラジカルを代表とする活性酸素が産生される。これらがタンパク質や脂質、あるいは核酸と反応し、生体にダメージを与える。

[用語3-1] アルコール性脂肪性肝炎(ASH)[用語3-2] 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH) : 肝炎のうちアルコールの過剰摂取が原因で引き起こされる病態がアルコール性脂肪性肝炎(ASH)である。アルコールを飲んでいないのにASHと似たような病態を示すのが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)で、高脂肪食による遊離脂肪酸が原因で起こるとされている。線維化、大滴性の脂肪滴、壊死・炎症所見、肝細胞の風船様膨化、核空胞化、脂肪肉芽腫、胞体内凝集傾向、約30%にマロリー体(MB)がみられる。

[用語4] メタボリックシンドローム : 内臓性脂肪症候群のことで、内蔵肥満に高血圧、高血糖、脂質代謝異常が組み合わさり、心臓病や脳卒中などの動脈硬化性疾患や肝炎を招きやすい生活習慣病。

[用語5] 肝細胞増殖因子受容体c-Met : タンパク質同士を共有結合させる架橋反応を触媒する酵素。タンパク質中のアミノ酸のグルタミンを利用してペプチド結合を形成させるため、この名が付けられた。架橋反応にどのような生理学的な意味があるかは不明な点が多い。

[用語6] 肝細胞増殖因子受容体c-Met : 増殖因子とは生体内において特定の細胞の増殖や分化を促進するタンパク質の総称。さまざまな細胞学的・生理学的過程の調節を行い、細胞表面に存在する受容体タンパク質に特異的に結合することで、生命の維持に必要なシグナルを伝える細胞間の信号物質として働く。この受容体が増殖因子受容体である。肝細胞増殖因子の最も主要な受容体がc-Metである。

[用語7] 転写因子Sp1 : がん細胞を含むほとんど全ての細胞において、その細胞が生きていくために必要な増殖因子の受容体の遺伝子発現をつかさどる転写因子。転写因子とは、DNAに特異的に結合するタンパク質で、遺伝子の転写開始や調節に関与する。

[用語8] 架橋結合 : 化学反応において、複数の分子が橋を架けたように結合すること。この結合により、生体構造の安定化やタンパク質の機能変換が行われる。

[用語9] 電子スピン共鳴(ESR) : 電子スピン共鳴(ESR)法は電子スピン(不対電子)を検出する分光法の一種。電子スピンに起因する磁気モーメントのエネルギーは、スピンの量子化に伴って磁場中で分裂する(ゼーマン効果)。ESRはこのゼーマン分裂によるエネルギー準位間の遷移であり、研究対象に存在する不対電子のミクロな電子状態を調べることができる。また、ESRスピントラップ法を用いることによって、ヒドロキシルラジカルなどの短寿命ラジカルの同定や定量的な評価が可能となる。

[用語10] NOX遺伝子 : NADPH oxidase(Nox)ファミリー遺伝子の総称。NADPHを基質として、活性酸素を産生する膜酵素。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Fungus-derived hydroxyl radicals kill hepatic cells by enhancing nuclear transglutaminase
著者 :
R Shrestha, R Shrestha, X-Y Qin, T-F Kuo, Y Oshima, S Iwatani, R Teraoka, K Fujii, M Hara, M Li, A Takahashi-Nakaguchi, H Chibana, J Lu, M Cai, S Kajiwara, and S Kojima
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
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お問い合わせ先(研究内容について)

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E-mail : skajiwar@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5715 / Fax : 045-924-5773

お問い合わせ先

理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター

広報・サイエンスコミュニケーション担当 山岸敦

E-mail : ayamagishi@riken.jp
Tel : 078-304-7138 / Fax : 078-304-7112

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

遺伝子撹拌装置をタイミング良く染色体から取り外す仕組み

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遺伝子撹拌装置をタイミング良く染色体から取り外す仕組み
―減数分裂期に相同染色体間の遺伝情報交換を促す高次染色体構造の解体を指揮するシグナリングネットワークを特定―

私たちヒトを含む多くの真核生物では、父親と母親から受け継いだ2セットの遺伝情報を持っています。この遺伝情報を次世代に伝えるには配偶子と呼ばれる特殊な細胞(ヒトの場合は精子と卵)を形成し、ちょうど半分の遺伝情報をその中に分配する必要があります。また、その際父親と母親の遺伝情報はお互いの遺伝情報を交換することで激しく撹拌され、そのことにより生物の多様性は劇的に増大します。この目的を果たすために減数分裂期の染色体は、『遺伝子攪拌装置』とでも呼ぶべき非常に複雑な高次構造を形成するのですが、ひとたび遺伝子の攪拌が終了するとこの構造体を直ちに解消しなければ、次に起こるべき染色体分配に支障をきたしてしまいます。減数分裂の進行において、タイミングよくこの染色体高次構造を解消し、次のステップに進める仕組みは謎に包まれていました。

今回、基礎生物学研究所、東京工業大学、サセックス大学、ニューヨーク州立大学のメンバーからなる共同研究グループは、真核生物の単純なモデルである出芽酵母を用いた研究により、細胞分裂の進行を制御する分子群が、減数分裂期の高次染色体構造の解体を直接指揮するスイッチ役として働くことを明らかにしました。本研究成果は、2017年7月10日に欧州分子生物学機構が発行する専門誌EMBO Journal(電子版)に掲載されました。

研究の背景

有性生殖を行うヒトなどの真核生物は、遺伝情報を次の世代に伝える為に、配偶子と呼ばれる特殊な細胞(精子や卵など)を形成します。その過程で、配偶子に対し親細胞の染色体数の半分だけを正確に分配することが必要で、その為に用いられるのが減数分裂と呼ばれる特殊な細胞周期です。減数分裂では1回のDNA複製に続いて2回の連続した細胞分裂、それぞれ減数第一分裂、第二分裂が起こります(図1)。特に減数第一分裂においては、相同染色体が分配される点が非常に特徴的であり、これは姉妹染色分体が分配される体細胞分裂とは大きく異なります。また、減数第一分裂に先立ち、相同染色体同士はその全長に渡って密着し、シナプトネマ複合体と呼ばれる複雑な染色体高次構造を形成します(図2)。その間相同染色体間では遺伝情報が活発に交換され、このプロセスは生命の多様性を生み出す原動力となって来ました。基礎生物学研究所/サセックス大の坪内英生を中心とする研究グループは、真核生物の単純なモデルである出芽酵母を用いて、遺伝情報交換の場として機能するシナプトネマ複合体の形成と解離のメカニズムの解明に取り組んできました。今回、坪内らは、シナプトネマ複合体の解離と細胞周期を結びつけるシグナリングネットワークを特定し、その制御機構の解析を行いました。

体細胞分裂と減数分裂の違い。減数分裂の大きな特徴はその第一分裂にある。減数第一分裂前期においては相同染色体同士がお互いを認識して接着し、その遺伝情報を交換する。また、減数第一分裂では相同染色体が分配されるが、これは姉妹染色分体が分配される体細胞分裂や減数第二分裂とは大きく異なる。
図1.
体細胞分裂と減数分裂の違い。減数分裂の大きな特徴はその第一分裂にある。減数第一分裂前期においては相同染色体同士がお互いを認識して接着し、その遺伝情報を交換する。また、減数第一分裂では相同染色体が分配されるが、これは姉妹染色分体が分配される体細胞分裂や減数第二分裂とは大きく異なる。
減数第一分裂前期における染色体高次構造。減数第一分裂前期において相同染色体が密着し遺伝情報の交換をするために、染色体は特徴的な高次構造を形成する。この構造体をシナプトネマ複合体という。この構造体においては相同染色体同士がその全長に渡って一定の間隔をおいて密着するので、電車の線路のような構造体が電子顕微鏡による観察で認められる。
図2.
減数第一分裂前期における染色体高次構造。減数第一分裂前期において相同染色体が密着し遺伝情報の交換をするために、染色体は特徴的な高次構造を形成する。この構造体をシナプトネマ複合体という。この構造体においては相同染色体同士がその全長に渡って一定の間隔をおいて密着するので、電車の線路のような構造体が電子顕微鏡による観察で認められる。

研究の成果

シナプトネマ複合体は減数第一分裂前期の開始と共に形成され始め、前期の中盤でその形成が完了し相同染色体はその全長に渡って密着します(図2)。同時に、密着した相同染色体間で相同組換えが活発に誘導され遺伝情報が交換されます。これは減数分裂期特有の現象で、体細胞分裂期の相同組換えが姉妹染色分体間で起こるのとは対照的です。相同組換え反応が継続する間、細胞は減数第一分裂前期内に留まり、シナプトネマ複合体構造は維持されます。ところが、ひとたび相同組換え反応が完了すると細胞周期は減数第一分裂前期を脱して中期に進行し、シナプトネマ複合体は染色体上から素早く解離します。研究グループは細胞周期の進行とシナプトネマ複合体の解離がどのようにコーディネートされているのかを探索する過程で、真核生物の細胞周期を制御するタンパクキナーゼがシナプトネマ複合体の解離調節の鍵となっていることを見出しました(図3)。それらは、細胞周期の原動力と呼ばれるサイクリン依存性キナーゼ(CDK1)、DNA複製開始のタイミング制御に重要なことが知られているDbf4依存性Cdc7キナーゼ(DDK)、及び主にM期で機能することが知られるポロキナーゼです。

特に今回、研究グループはDDKの活性を調節するDbf4のリン酸化がシナプトネマ複合体の解離調節の鍵となることを見出しました。この過程で重要になってくるのが減数第一分裂前期内で活発に起こっている相同組換え反応です。減数第一分裂前期中では、相同組換え反応を監視しているメカニズムがあり、相同組換え反応の終了が近づくとポロキナーゼの発現が誘導されると共にCDK1の活性が上昇します。この際、発現したポロキナーゼはDbf4と直接相互作用してそのリン酸化を促します。同時に活性が上昇したCDK1もDbf4のリン酸化に寄与し、このDbf4リン酸化がシナプトネマ複合体構成タンパク質の分解を引き起こすことで、染色体からのシナプトネマ複合体の解離を誘導するスイッチになっていることが明らかになりました。また、減数第一分裂前期中では相同染色体間の遺伝情報の交換を促進するために、体細胞分裂期型の組換え経路が抑制されているのですが、細胞が減数第一分裂前期から出ると、体細胞分裂期型組換えが直ちに再活性化することを見出しました。今回の研究により、染色体構造が減数分裂期型から体細胞分裂期型に戻る際に、その変換を司る主要な情報伝達系を明らかにしたと考えています。

減数分裂期の染色体高次構造の解離を指揮するシグナリングネットワーク。減数第一分裂前期から中期にかけて、染色体高次構造は急速に染色体から解離するが、その過程には細胞周期の制御に関わる3つのタンパクキナーゼが関与している。その制御において中心になるのが Dbf4依存性Cdc7キナーゼの調節因子Dbf4のリン酸化である。
図3.
減数分裂期の染色体高次構造の解離を指揮するシグナリングネットワーク。減数第一分裂前期から中期にかけて、染色体高次構造は急速に染色体から解離するが、その過程には細胞周期の制御に関わる3つのタンパクキナーゼが関与している。その制御において中心になるのが Dbf4依存性Cdc7キナーゼの調節因子Dbf4のリン酸化である。

今後の展望

減数分裂のメカニズムは体細胞分裂のメカニズムの上に構築されていると考えられますが、両者に非常に大きな違いがあるのもまた事実です。特に減数第一分裂期においては染色体分配様式が異なるだけでなく遺伝情報の撹拌という、体細胞分裂期とは全く異なる機能が付加されるのです。こういった機能の付加は、可逆的であるという特徴があり、細胞は極めて迅速に減数分裂期型から体細胞分裂期型へと染色体構造を変換する能力を備えています。このような染色体のダイナミックな動態はヒトを含む高等真核生物でも保存されていることから、同様のシグナリングネットワークが減数分裂から体細胞分裂への染色体構造変換に関与しているのか、今後興味が持たれるところです。

研究グループ

  • 基礎生物学研究所/英国・サセックス大学:坪内英生
  • 基礎生物学研究所:坪内知美
  • 東京工業大学/英国・サセックス大学:Bilge Argunhan, Negar Afshar
  • 東京工業大学:村山泰斗(7月1日より国立遺伝学研究所 所属)、岩﨑博史
  • 英国・サセックス大学:Wing‐Kit Leung, Yaroslav Terentyev
  • 米国・ニューヨーク州立大学:Vijayalakshmi V Subramanian, Andreas Hochwagen

研究サポート

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業、英国Biotechnology and Biological Sciences Research Council、Medical Research Councilなどの支援のもとで行われました。

論文情報

掲載誌
The EMBO Journal
論文タイトル
Fundamental cell cycle kinases collaborate to ensure timely destruction of the synaptonemal complex during meiosis
著者
Bilge Argunhan, Wing‐Kit Leung, Negar Afshar, Yaroslav Terentyev, Vijayalakshmi V Subramanian, Yasuto Murayama, Andreas Hochwagen, Hiroshi Iwasaki, Tomomi Tsubouchi, Hideo Tsubouchi
DOI :

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本研究に関するお問い合わせ先

基礎生物学研究所 幹細胞生物学教室
坪内英生

E-mail : htsubo@nibb.ac.jp

Tel : 0564-55-7695

東京工業大学 科学技術創成研究院
細胞制御工学研究センター
岩崎博史 教授

E-mail : hiwasaki@bio.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2588

取材申し込み先

基礎生物学研究所 広報室

E-mail : press@nibb.ac.jp

Tel : 0564-55-7628 / Fax : 0564-55-7597

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

第23回スーパーコンピューティングコンテスト ―高校生・高専生の熱き知的な戦い「夏の電脳甲子園」(東京工業大学・大阪大学共同開催)

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昨年度開催風景
昨年度開催風景

スーパーコンピューティングコンテスト(以下、スーパーコン)は、スパコン上で行う高校生・高専生対象のプログラミングコンテストです。

予選を通過した高校生・高専生の20チームがスパコンを使い、難しい出題に対し、試行錯誤しながら4日間をかけプログラムを作成し、その性能を競います。

1995年より毎年夏に行われ、「夏の電脳甲子園」という名で、プログラミングが大好きな若者を惹きつけてきました。このコンテストから毎年、様々なドラマが生まれています。

  • 予選を通過した強豪20チームが東工大と阪大に集結、本選 (8月21日~25日)に挑む
  • 大阪大学のスーパーコンピュータSX-ACEを使用
  • 成果発表会・表彰式を8月25日に東工大・阪大で同時開催

最終日の成果発表会・表彰式では、その奮闘の様子を紹介いたします。成果発表会・表彰式にお越しいただき、若者たちの熱い戦いをご覧ください。

第23回スーパーコンピューティングコンテスト 本選

日時
2017年8月21日(月) - 25日(金)
場所

東京工業大学 大岡山キャンパス 学術国際情報センター
大阪大学 サイバーメディアセンターouter

本選会場に入室できるのは参加者及び大会関係者のみとなります。

成果発表会・表彰式

日時
2017年8月25日(金)10:00 - 12:00
場所
東京工業大学 蔵前会館1階 ロイアルブルーホールouter
大阪大学 サイバーメディアセンタ 豊中教育研究棟 7階(豊中キャンパス)

お問い合わせ先

スーパーコン17実施委員会
(東京工業大学学術国際情報センター、大阪大学サイバーメディアセンター)

E-mail : sc17query@gsic.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

スマート創薬手法で4個のヒット化合物を発見 ―顧みられない熱帯病(NTDs)制圧に期待―

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研究成果のポイント

  • 創薬研究向けデータベース「iNTRODB」で、シャーガス病やリーシュマニア症などの原因となるトリパノソーマ科寄生原虫の創薬標的(スペルミジン合成酵素[用語1])を発見
  • スーパーコンピュータ「TSUBAME」で、スペルミジン合成酵素の機能を阻害する化合物候補約480万化合物から176化合物を選択、アッセイ試験[用語2]を行い、阻害活性を持つヒット化合物を4個見つけた
  • IT創薬と生化学実験が連携する「スマート創薬」により、従来の創薬手法の20倍以上のヒット率でヒット化合物を獲得した

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 スマート創薬研究ユニットの関嶋政和ユニットリーダー/准教授、同大学 情報理工学院 情報工学系の秋山泰教授、長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科の北潔教授を中心とする研究グループは、顧みられない熱帯病[用語3](NTDs)の創薬研究で利用する統合型データベース「iNTRODB」を用いて、シャーガス病やリーシュマニア症、アフリカ睡眠病等の原因となるトリパノソーマ科寄生原虫の創薬標的としてスペルミジン合成酵素を決定。東京工業大学のスーパーコンピュータ「TSUBAME」を用いて、この酵素の機能を阻害するヒット化合物を4個発見した。

本研究開発では、IT創薬と生化学実験が連携するスマート創薬で、従来の創薬手法であるHigh Throughput Screening(HTS)に比べ、20倍以上高いヒット率でヒット化合物を見つけることに成功した。今後、今回見出したヒット化合物について、細胞中に存在するトリパノソーマ科寄生原虫に対する殺原虫活性を確認していくほか、顧みられない熱帯病を始め、他の疾病に対してもこのスマート創薬の手法の適用を進め、創薬コストの削減を目指していく。

iNTRODBにより創薬標的を発見し、スマート創薬により高いヒット率でヒット化合物の獲得に成功した本研究成果は、2017年7月27日号の国際科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

NTDs創薬研究向け統合型データベース「iNTRODB」は、第11回産学官連携功労者表彰において厚生労働大臣賞を受賞している。

研究成果

創薬には、十数年にわたる長い期間と3,000億円以上とも言われる膨大な費用が必要であり、近年はこの研究開発費が増加傾向にある。これまで新規化合物獲得のための期間と費用を削減し、有望な薬候補化合物を効率的に探索するためにさまざまな手法、アプローチが開発されてきた。

顧みられない熱帯病(NTDs)は、主に開発途上国の熱帯地域、貧困層を中心に蔓延しているウイルス、細菌、寄生虫等による感染症を中心とする疾病のことで、WHOで制圧せねばならないとしている20の疾患群で、世界で累計10億人以上が感染していると言われている。

研究グループは、秋山泰教授、北潔教授(当時東京大学)らとアステラス製薬熱帯感染症研究チームが連携して2012年に開発したNTDs創薬研究向け統合データベース「iNTRODB」を活用して、トリパノソーマ科寄生原虫の全遺伝子情報(約2万7,000 件)、蛋白質構造情報(約7,000件)、関連化合物情報(約100万件)を元に、シャーガス病、リーシュマニア症、アフリカ睡眠病等の原因であるトリパノソーマ科寄生原虫の創薬標的となる「スペルミジン合成酵素」を決定した(図1)。

iNTRODBを用いた創薬標的決定の流れ

図1. iNTRODBを用いた創薬標的決定の流れ

研究グループは、決定された創薬標的に対して、東京工業大学のスーパーコンピュータTSUBAMEを用いたドッキングシミュレーション(図2)と分子動力学シミュレーション、in vitro試験を組み合わせたスマート創薬により、スペルミジン合成酵素に対する阻害活性を持つ4個のヒット化合物を発見した。一般の創薬手法で用いられる「High Throughput Screening (HTS) [用語4]」ではヒット率が0.1%以下[参考文献]にとどまるのに比べて、本手法では2.27%と、20倍以上のヒット率を実現している。また、研究グループはドッキングシミュレーションで行ったスペルミジン合成酵素の標的(ターゲット)部位にヒット化合物が結合していることをX線結晶構造解析で確認した(図3)。

ドッキングシミュレーション

図2. ドッキングシミュレーション

X線結晶構造解析で明らかにした(左)スペルミジン合成酵素とヒット化合物の全体構造及び(右)ヒット化合物が結合する部位の拡大

図3. X線結晶構造解析で明らかにした(左)スペルミジン合成酵素とヒット化合物の全体構造及び(右)ヒット化合物が結合する部位の拡大

今後の展開

東京工業大学と長崎大学は今後、今回見つかったヒット化合物について、細胞中に存在するトリパノソーマ科寄生原虫に対する殺原虫活性を確認していくほか、他の疾病に対してもこのスマート創薬の手法の適用を進め、創薬コストの削減を目指していく。

用語説明

[用語1] スペルミジン合成酵素 : 寄生原虫の生存に必要なポリアミンであるスペルミジンを合成する酵素。

[用語2] アッセイ試験 : 生体分子や細胞などを用いて、影響を調べる試験。バイオアッセイ。今回は、スペルミジン合成酵素への化合物の阻害活性を、一定濃度、または濃度を変化させて調べた。

[用語3] 顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTDs : 主に開発途上国の熱帯地域、貧困層を中心に蔓延している、ウイルスや細菌、寄生虫による感染症を中心とする疾病のことで、WHOで制圧を目指している20の疾患群を指し、世界で累計10億人以上が感染していると言われている。未だ必要な医療を受けることができず、必要な医薬品を入手できないために、人々の生命を脅かす健康問題に留まらず、経済活動の足かせ・貧困の原因になっている。

住血吸虫症、デング熱、狂犬病、トラコーマ、ブルーリ潰瘍、トレポネーマ感染症、ハンセン病、シャーガス病、睡眠病、リーシュマニア症、嚢尾虫症、ギニア虫感染症、包虫症、食物媒介吸虫類感染症、リンパ系フィラリア症、オンコセルカ症、土壌伝播寄生虫症、マイセトーマ(菌種)、疥癬およびその他の外部寄生虫、毒蛇咬傷

[用語4] High Throughput Screening (HTS) : ウェルと呼ばれる小さな穴(試験管に相当する)に化合物と酵素などを入れて、ロボットにより実験を自動化することで多くの測定を迅速に行うことが可能なスクリーニング方法。

[参考文献] : Varma H, Lo DC, Stockwell BR. High-Throughput and High-Content Screening for Huntington’s Disease Therapeutics. In: Lo DC, Hughes RE, editors. Neurobiology of Huntington's Disease: Applications to Drug Discovery. Boca Raton (FL): CRC Press/Taylor & Francis; 2011. Chapter 5. Available from NCBI Bookshelfouter

論文情報

掲載誌
Scientific Reports
論文タイトル
In silico, in vitro, X-ray crystallography, and integrated strategies for discovering spermidine synthase inhibitors for Chagas disease
著者
Ryunosuke Yoshino, Nobuaki Yasuo, Yohsuke Hagiwara, Takashi Ishida, Daniel Ken Inaoka, Yasushi Amano, Yukihiro Tateishi, Kazuki Ohno, Ichiji Namatame, Tatsuya Niimi, Masaya Orita, Kiyoshi Kita, Yutaka Akiyama, and Masakazu Sekijima
DOI :

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
スマート創薬研究ユニット
ユニットリーダー/准教授
関嶋政和

E-mail : sekijima@c.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5104

長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科
研究科長/教授
北潔

E-mail : kitak@nagasaki-u.ac.jp

Tel : 095-819-7575

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

長崎大学 広報戦略本部

E-mail : kouhou@ml.nagasaki-u.ac.jp

Tel : 095-819-2007 / Fax : 095-819-2156

8月の学内イベント情報

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8月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

社会人アカデミー主催 2017年度「理工系一般プログラム」

社会人アカデミー主催 2017年度「理工系一般プログラム」

社会人アカデミーでは、毎年ご好評をいただいている理工系一般プログラムを本年度も開講しています。

日時
「環境科学」(コースレベル:初・中級)4月22日(土)~6月24日(土)※終了
「環境工学(1)リサイクル」(コースレベル:中級)4月21日(金)~6月16日(金)※終了
「環境工学(2)エネルギー」(コースレベル:中級)6月23日(金)~8月18日(金)
「食の安全と安心」(コースレベル:基礎)4月18日(火)~8月1日(火)
場所
参加費
「環境科学」(コースレベル:初・中級)30,856円
「環境工学(1)リサイクル」(コースレベル:中級)15,428円
「環境工学(2)エネルギー」(コースレベル:中級)15,428円
「食の安全と安心」(コースレベル:基礎)30,856円
対象
一般
申込
必要

ひらめきときめきサイエンス2017「目で見てわかる昔の日本語と今の日本語 : タイムマシンに 乗らずに行ける昔の世界」

ひらめきときめきサイエンス2017「目で見てわかる昔の日本語と今の日本語 : タイムマシンに 乗らずに行ける昔の世界」

ことばは時代につれて変化していきます。今の私たちの知っていることばの意味は今の意味で、昔のことばの意味とまったく同じではありません。昔の文章から、ことばの使い方を図に描くことで、目で見てわかる昔のことばの世界についてお話しします。

日時
8月2日(水) 10:00 - 17:15(受付9:50 - 10:00)
場所
参加費
無料
対象
中学生
申込
必要

夏のワークショップ2017「声に出してシェイクスピア-悲劇編その1『マクベス』-」(全5回)

夏のワークショップ2017「声に出してシェイクスピア-悲劇編その1『マクベス』-」(全5回)

気鋭の若手シェイクスピア研究者、小泉勇人准教授の解説を聞きつつ、俳優の下総源太朗さんとともに四大悲劇のひとつ『マクベス』の台詞を読んでみます。下総源太朗さんは、昨年の新国立劇場での『ヘンリー四世』にも出演され、シェイクスピア没後400年シンポジウム「歴史劇の現場から」にも講師として登壇いただきました。全体のコーディネートは、英国現代劇を専門とし、演劇評論家でもある谷岡健彦教授が行います。シェイクスピアの面白さは声に出してこそ実感できるものです。

日時
7月6日(木)、20日(木)、8月3日(木)、24日(木)、31日(木)(全5回)
各回とも18:00 - 20:00。1回のみの受講も可能。
場所
参加費
1回1,000円、全回通し4,000円(本学学生および教職員は無料)
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要

CERI寄附公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心―身の回りから先端科学まで―」(2017年前期)

CERI寄附公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心―身の回りから先端科学まで―」(2017年前期)

本講座では前期の講義として、私たちの身の回りにある化学品を含むゴムやプラスチックとその製品の安全・安心に関する情報とやさしい科学を、 一般の方にもわかりやすく紹介します。更に後期の講義では、少し高度な内容として、最先端の安全性評価技術、劣化と寿命予測技術、耐性向上技術、高性能・高強度化技術 ・材料に関する科学を紹介し、将来の安心・安全な材料・製品設計の基礎を学べるようにします。

日時
6月3日(土)、6月17日(土)、6月24日(土)、7月15日(土)、7月22日(土)、7月29日(土)、8月5日(土)、各日13:20 - 14:50、15:05 - 16:35
場所
参加費
無料(「追加資料代」として1,000円(全14講議分)が掛かります。初回受講時に申し受けます。)
対象
一般
申込
必要

高校生・受験生のためのオープンキャンパス2017(大岡山キャンパス)

高校生・受験生のためのオープンキャンパス2017(大岡山キャンパス)

東工大での学びや学生生活について体験し、深く知ってもらうためのオープンキャンパスを開催します。

日時
8月10日(木)10:00 - 17:00
場所
参加費
無料
対象
一般
申込
一部の企画に参加するためには事前申込みが必要です。

国立科学博物館「2017夏休みサイエンススクエア」

国立科学博物館「2017夏休みサイエンススクエア」

生命理工学院山田研究室は8月11日~13日の3日間、国立科学博物館主催「2017夏休みサイエンススクエア」に出展します。山田研究室の出展テーマは「腸内細菌ってなんだ?」です。今回2回目の出展となりますが、今回も生命理工学院の学部生たちが開発した腸内細菌ボードゲームを使ってそうした目に見えない細菌達の活動や仕組みを子ども達に楽しく学んでもらいます。

日時
8月11日(金)~13日(日)10:00 - 17:00
場所
国立科学博物館
参加費
入館料として高校生以下・65歳以上無料/一般・大学生620円(団体310円 ※20名以上)
対象
一般
申込
必要

シンポジウム「現代の社会と宗教 1995~2017」リベラルアーツ研究教育院主催

シンポジウム「現代の社会と宗教 1995~2017」リベラルアーツ研究教育院主催

混迷する現代社会にあって、宗教とは何か?阪神淡路大震災、オウム真理教から、ドナルド・トランプ、皇室典範特例法まで。20数年間のニュースを振り返り、文化人類学、宗教学、政治思想史、ジャーナリズムの視点から、社会の諸問題と宗教についてディスカッションを深めます。

日時
8月16日(水) 14:00 - 17:00
場所
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
不要

「マナビゲート2017」with Robogals Tokyo

「マナビゲート2017」with Robogals Tokyo

東京国際フォーラムにて開催される学び体験フェア「マナビゲート2017」に、東京工業大学がブース出展します。学び体験フェアマナビゲートは、子ども目線でアレンジした大学の知的財産を、子どもたちに「見て・聞いて・触れて」体験してもらう夏休みイベントです。

日時
8月19日(土)~8月20日(日) 10:00 - 17:00
場所
東京国際フォーラム 地下1階ロビーギャラリー
参加費
無料
対象
小学生・中学生
申込
不要

第23回スーパーコンピューティングコンテスト 成果発表会・表彰式

第23回スーパーコンピューティングコンテスト 成果発表会・表彰式

スーパーコンピューティングコンテスト(以下、スーパーコン)は、スパコン上で行う高校生・高専生対象のプログラミングコンテストです。予選を通過した高校生・高専生の20チームがスパコンを使い、難しい出題に対し、試行錯誤しながら4日間をかけプログラムを作成し、その性能を競います。最終日の成果発表会・表彰式では、その奮闘の様子を紹介いたします。成果発表会・表彰式にお越しいただき、若者たちの熱い戦いをご覧ください。

日時
8月25日(金)10:00 - 12:00
場所
参加費
無料
対象
一般
申込
不要

地球と遊ぼう2017 ―石の不思議を調べて地球を知ろう―

地球と遊ぼう2017 ―石の不思議を調べて地球を知ろう―

「地球とあそぼう2017」では、大きく分けて3つの実習を行います。

1.
きれいな鉱物をタガネで宝石のような形にけずって、その形や色を観察しよう
2.
南アメリカ・ボリビア産化石を砂利の中から探し出そう
3.
重液という薬品を使って重い石と軽い石に分ける実験を行おう
日時
8月26日(土) 9:45~、13:45~のいずれか(2回開催)
場所
参加費
無料
対象
小学5、6年生
申込
必要

科学教室「なぜ植物には葉っぱがあるの?」

科学教室「なぜ植物には葉っぱがあるの?」

なぜ植物は葉を持っているのでしょう?植物にとって葉の役割とは何でしょうか?

今回のイベントでは植物の葉に注目して、葉を構成している組織・細胞を顕微鏡で観察すると共に、これらの組織や細胞がどのような構造を持って、植物が生きる為にどのような働きをしているか考えてみましょう。そして、この働きを観察する方法を一緒に考え、研究してみましょう。

日時
8月27日(日) 10:00 - 12:00
場所
参加費
無料
対象
小学校高学年以上
申込
必要

一部締め切りを過ぎているものがございますが、取材をご希望の場合はご連絡ください。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京工業大学・ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーティンズ校 合同シンポジウム開催のご案内

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科学・技術と創造・芸術。この、一見離れた分野において、世界に知られる東京工業大学とロンドン芸術大学セントラルセントマーティンズ校。二校が手を組み、シンポジウムを実施することになりました。選んだテーマは「実験」。専門分野と文化の隔たりを超え、両者が繰り広げてきた「実験」とは何かを見つめ合い、学び合う機会です。幅広い分野から、英国・日本の研究者・実践者が集まり、それぞれの視点から語ります。

開催概要

日時
2017年5月27日(土) 13:00 -
場所
渋谷ヒカリエ ヒカリエホール ホールB
参加費
入場無料
申込み
申込みフォームouterよりお申込みください。
※先着170名様を優先受付とさせていただきます。
※その後は立ち見席となります。

モデレーター、登壇者

ヘザー・バーネット/キャロル・コレット/日比野克彦/広瀬茂男/トム・ホープ/池上彰/伊藤亜紗/小長谷明彦/ムージュノ・セリーヌ/野原佳代子/ジェレミー・ティル/豊田啓介/山縣良和(敬称略)

スケジュール

13:00

開会の辞

  • 三島良直(東京工業大学 学長)
  • ジェレミー・ティル(ロンドン芸術大学Central St. Martins校 校長)
  • 東京急行電鉄株式会社の挨拶
13:25

セッション1:デザインと産業

15:00

休憩

15:30
セッション2:アートと科学技術
16:55

キーノートセッション

モデレーター 池上彰(東京工業大学 特命教授)

17:55

閉会の辞

丸山俊夫(東京工業大学 理事・副学長)

(敬称略)

プログラムは変更になる場合があります。

東工大×ロンドン芸術大学セントラル・セントマーティンズ校合同シンポジウム 「科学・アート・デザインの実験」 ポスター

環境・社会理工学院

環境・社会理工学院 ―地域から国土に至る環境を構築―
2016年4月に発足した環境・社会理工学院について紹介します。

環境・社会理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

環境・社会理工学院 融合理工学系 野原研究室

E-mail : tokyotechxcsm@gmail.com
Tel : 03-5734-3521

3種の金属を1ナノメートルの粒子に合金化 ―炭化水素の酸化反応は市販触媒の24倍―

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要点

  • 粒径1ナノメートル(nm)程度の極微小なナノ粒子に3種類の金属を精密に合金化する手法を開発
  • 銅と貴金属群の合金界面が炭化水素の酸化反応で高い触媒活性を示すことを発見

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の山元公寿教授と山梨大学大学院医工農学総合研究部の高橋正樹助教らの研究グループは、銅と白金、金の3種類の金属を精密に制御した合金ナノ粒子の開発に成功した。

また、この粒子が空気中の酸素を利用した炭化水素での酸化反応[用語1]において市販の白金担持カーボン触媒の24倍もの触媒活性を示すことを発見した。この触媒反応では、合金ナノ粒子表面の銅と他の貴金属の界面の存在により、飛躍的に触媒活性が向上することがわかった。

本研究で得られた知見は、新たな高機能触媒の設計指針となる可能性があり、触媒反応を用いた不活性な炭化水素から付加価値の高い物質への変換技術の発展に貢献することが期待される。

この研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「ERATO山元アトムハイブリッドプロジェクト(山元公寿研究総括)」で実施した。

本成果は、2017年7月26日付(米国東海岸時間)の米国オンライン科学雑誌「Science Advances」に掲載された。

研究の背景

極性官能基を持たない炭化水素化合物の酸化反応には、有害な有機溶媒中で金属の過酸化物を多く使用する手法が用いられてきた。近年、このような溶媒を使用せず、空気中の酸素を用いたクリーンな触媒的酸化反応の研究が盛んに行われている。

なかでも、貴金属のナノ粒子が多孔質のカーボン材料や金属酸化物へ固定された担持触媒の研究は広く行われており、有望な触媒系として期待されている。このような不均一系触媒の反応性を決める上で重要な要素は、金属ナノ粒子の形状やサイズ(粒子径)、金属組成であり、新たな高機能触媒の開発に向けた制御手法が求められている。特に粒子径が2 nm以下の粒子では、触媒の粒子径を小さくしていくと、比表面積が大きくなるだけでなく金属表面の電子状態も大きく変化し、それに伴って反応性が大きく変わることが分かっている。しかし、これまで2 nm以下の金属ナノ粒子の粒子径、組成の両方を制御できる合成法はなかった。今回の研究は、これまで触媒機能が明らかにされてこなかった粒子径が1 nmの合金触媒の合成とその反応性の解明を目的として行い、空気中の酸素を用いた炭化水素の酸化反応の触媒活性を明らかにするとともに、銅と他の貴金属の界面での特異的な触媒活性の向上効果を発見した。

研究成果

山元教授らは、樹状型の規則構造を持つ高分子であるデンドリマーを利用して、複数の金属からなる、1 nm程度の微小な合金ナノ粒子の合成法を開発した。このデンドリマーを用いたナノ粒子合成法[用語2]では、様々な金属の組み合わせで、一般的なナノ粒子の水熱合成などと比較してより粒径の小さく、個々の粒子の合金組成が均一な合金ナノ粒子を合成できる(図)。今回、空気中の酸素分子を酸化剤として用いた際の、常圧下での炭化水素の酸化反応における触媒活性を評価した。その結果、銅原子と他の貴金属からなる合金ナノ粒子が、有機化合物の酸化反応に用いられる市販の白金担持カーボン触媒と比較すると24倍もの活性を有することを見いだした。

また、この触媒は、少量(触媒量)の有機ヒドロペルオキシドを加えることで、常温常圧下で炭化水素のアルデヒドやケトンへの酸化反応を進行させることが分かった。さらに、異なる金属組成による活性の変化や、生成物と中間体であるケトンと有機ヒドロペルオキシドの組成比等を調べることで、金属ナノ粒子の合金化による触媒反応の促進過程を観察することができた。

デンドリマーを用いたナノ粒子合成法

デンドリマーを用いたナノ粒子合成法

今後の展望

本研究で開発した合金ナノ粒子の合成法は、これまで困難であった1 nm前後の合金ナノ粒子の金属組成を適切に制御して合成することができる。

また、この手法はデンドリマー分子に配位させることができる他の金属種へと応用可能で一般性が高い。そのため、今まで触媒機能が不明であった微小なサイズの合金ナノ粒子の反応性を解明する手法としても有用である。銅と他の貴金属界面での触媒活性の向上効果についても炭化水素の酸化反応だけでなく、様々な有機化合物の酸化的変換反応における触媒活性を検討してみる必要があり、より多彩な反応への応用が期待される。

用語説明

[用語1] 炭化水素での酸化反応 : 通常、極性官能基や不飽和結合を持たない炭化水素は非常に安定なC-H結合を有しているため、反応させることは困難である。しかし、反応しやすい構造への分子変換反応を経由しないため、シンプルなプロセスで有用な化合物を合成できる利点があり、有機合成や固体触媒の研究分野で盛んに研究されている。

[用語2] デンドリマーを用いたナノ粒子合成法 : デンドリマーはコア(core)と呼ばれる中心分子と、デンドロン(dendron)と呼ばれる側鎖部分から構成される特殊な樹木型の幾何構造を有する高分子である。一般に高分子はある程度の分子量分布を持つが、高世代のデンドリマーは、分子量数万に達するもののほとんど単一分子量であるという際立った特徴を持つ。金属粒子を得るために金属イオンと複合体を形成できる、ポリアミドアミン構造を持つPAMAMデンドリマーなどは、試薬会社から市販もされているが、本研究は、さらに精密に金属数を規定して複合体形成が可能な、独自設計されたフェニルアゾメチンデンドリマーを用いている。この原子数が明確なデンドリマー-白金イオン複合体を化学的に還元処理すると、原子数が明確な白金粒子が得られている。今回、この配位サイトを持ったデンドリマーを鋳型として、3種類の金属(白金、金、銅)を精密に混合したナノ粒子触媒を合成した。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Finely controlled multimetallic nanocluster catalysts for solvent-free aerobic oxidation of hydrocarbons
著者 :
Masaki Takahashi, Hiromu Koizumi, Wang-Jae Chun, Makoto Kori, Takane Imaoka, Kimihisa Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

山元公寿 教授

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-925-5260

JST事業に関するお問い合わせ先

科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部

古川雅士

E-mail : eratowww@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3528

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432


東京工業大学が、スパコンと化学合成技術を融合した世界初となる中分子IT創薬研究拠点を、キング スカイフロントに設立

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東京工業大学が、スパコンと化学合成技術を融合した世界初となる中分子IT創薬研究拠点を、キング スカイフロントに設立
―東京工業大学・川崎市の提案事業が、文部科学省「平成29年度地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」支援対象に採択―

要点

  • 国立大学法人東京工業大学(以下、東工大)と川崎市が共同提案した事業プログラム「IT創薬[用語1]技術と化学合成技術の融合による革新的な中分子[用語2]創薬フローの事業化」が、文部科学省「平成29年度地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」支援対象に採択されました(全国で10件採択。補助額は年1億5,500万円)。
  • 本プログラムでは、スパコンや機械学習を駆使したIT創薬技術と、人工ペプチド・人工核酸などの独自の化学合成技術を融合して、中分子創薬の開発効率の大幅な改善を目指します。
  • 東工大の学内に異分野の教員が集結する研究体制を構築するほか、川崎市の殿町国際戦略拠点「キング スカイフロント」(以下、キングスカイフロント[用語3])内に整備予定の東工大拠点について、さらに中分子に関する研究機能を強化した「中分子IT創薬研究拠点(MIDL)[用語4]」として今年度内に設立予定です。中分子創薬分野にIT創薬の手法を導入する試みは独自性が高く、専門施設としては世界初となる見込みです。

東工大 中分子IT創薬研究拠点(MIDL)の入居施設

東工大 中分子IT創薬研究拠点(MIDL)の入居施設

概要

東工大と川崎市は共同で、中分子IT創薬に関する事業化プロジェクトを含む、イノベーション・エコシステム形成に向けた研究開発プログラムを実施する。「IT創薬技術と化学合成技術の融合による革新的な中分子創薬フローの事業化」と題する事業プログラムは、このたび文部科学省による「平成29年度地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」支援対象に選定された(2017年7月31日(月)文部科学省プレスリリース)。支援期間は、2022年3月までの5年間の予定。

研究の内容

東工大の情報理工学および生命理工学の学問的蓄積とスパコン技術を活かして、IT創薬技術、人工ペプチド・人工核酸合成技術等のコア技術の融合による革新的な中分子創薬事業フローを構築する。

研究の体制

同プログラムは、東工大のキャンパス内で実施されるだけでなく、川崎市の殿町国際戦略拠点「キングスカイフロント」内に、中分子IT創薬研究拠点(MIDL)を設立し、川崎市内企業等[用語5]が参加する大型の産学官連携事業として展開する。設立予定場所は、大和ハウス工業株式会社が開発・設計・施工する殿町3丁目A地区内のIIA棟1階。

研究の拠点

東工大では、かねてよりキングスカイフロントへの研究拠点の新設を計画しており、当事業の支援採択を受けて、さらに研究機能を強化した中分子IT創薬研究拠点(MIDL)として施設を設置する。中分子創薬分野にIT創薬の手法を導入する試みは独自性が高く、専門施設としては世界初となる見込み。

川崎市内の企業等との産学官連携により、基礎・基盤研究と創薬事業を橋渡しするイノベーション・エコシステムを形成することで、中分子創薬の開発効率の大幅な向上を目指す。

用語説明

[用語1] IT創薬 : 創薬の過程において、薬剤標的分子の決定支援から、実際の候補化合物の選択、体内安定性、膜透過性、毒性などに至るさまざまな側面で、情報技術(IT)を駆使した手法のこと。知識処理、機械学習、分子シミュレーションなどを主に用いる。

[用語2] 中分子 : ペプチドや核酸など、分子量が500~30,000程度の分子を指す。従来の創薬の主流は、分子量が500以下となる低分子を合成することであり、いわば「低分子創薬」だった。これに対して近年、抗体などの高分子を使った創薬(たとえば、がんに対するオプジーボなど)が新たに登場したが、人工的な合成ができず高度に管理された条件下で動物細胞を使って作成されるために、きわめて高額であるなどの欠点があった。中分子は化学合成が可能でありながら、高分子に似た様々な利点を有しており、創薬の新たな中心になると期待されている。

[用語3] キングスカイフロント : 川崎市川崎区殿町に位置する国際戦略拠点「キングスカイフロント」は、世界的な成長が見込まれる健康・医療・福祉・環境分野において、最高水準の研究開発から新産業を創出するオープンイノベーション拠点。現在50社を超える企業・研究機関が集積し、運営を開始している。

[用語4] 中分子IT創薬研究拠点(MIDL:Middle Molecule IT-based Drug Discovery Laboratory) : 新たな創薬技術として注目される中分子創薬に、スパコンを用いた分子シミュレーションや機械学習などの最新の情報技術を活用する東工大の研究拠点。中分子創薬の分野にIT創薬の手法を導入する研究グループとしては世界初。

[用語5] 川崎市内企業等 : 川崎市域のIT系・化学系・創薬系の企業との連携を強めていく。本事業における現時点での協力企業等は以下のとおり。(公財)川崎市産業振興財団、川崎信用金庫、株式会社横浜銀行、株式会社浜銀総合研究所、株式会社みらい創造機構、株式会社ファストトラックイニシアティブ、MVP株式会社、ペプチドリーム株式会社、株式会社レベルファイブ、株式会社情報数理バイオ、株式会社カタリスト、モジュラス株式会社

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

本事業プログラムの内容、中分子IT創薬研究拠点に関すること

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系
教授 秋山泰

E-mail : staff@bi.c.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3645 / Fax : 03-5734-3646

キングスカイフロントに関すること

川崎市 臨海部国際戦略本部 国際戦略推進部 東

E-mail : 59kokuse@city.kawasaki.jp

Tel : 044-200-3633 / Fax : 044-200-3540

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

懲戒処分の公表について

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このたび、本学職員に対して以下のとおり懲戒処分を行いましたので公表します。

1.
被処分者 工学院 准教授 山本貴富喜(やまもと たかとき)
2.
処分年月日 平成29年8月7日
3.
処分の内容 停職4月
4.

事案の概要
被処分者は、教育研究資金の不正使用に該当する行為を行ったものであり、国立大学法人東京工業大学職員就業規則第43条第1項第3号、第6号、第8号、同条第2項第3号の規定に基づき、停職4月の懲戒処分としたものです。
不正使用の詳細につきましては、平成28年12月28日付で下記に公表しましたとおりです。

教育研究資金の不正な使用に係る調査結果について

学長コメント

本学では、平成27年3月に「教育研究資金不正防止計画」を策定し、不正を起こさせない風土を実現するため、各種取組を進めてまいりました。

このような中、准教授による教育研究資金の不正使用が行われていたことについて、国民の皆様、関係機関に対し深くお詫び申し上げます。

本事案は、本学の研究者・研究活動に対する信頼を著しく損ねる行為であり、慚愧に堪えないものであります。 准教授に対しては厳正なる処分を行い、不正に使用された教育研究資金については全額(約155万円)を返還させました。

今後、このような不正な使用が行われないよう再発防止に努めてまいります。

国立大学法人 東京工業大学
学長 三島良直

お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661
Email : media@jim.titech.ac.jp

免疫細胞を活性化する情報伝達分子の働きを解明

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免疫細胞を活性化する情報伝達分子の働きを解明
―生きた細胞中の1分子の動きと相互作用を見る新手法を開発―

要点

  • 免疫T細胞を活性化するタンパク質分子の動きを解明
  • 生きた細胞中で分子1個の動きを観察し計測できる画像解析方法を開発
  • ノーベル賞で注目集める分子イメージング分野での利用を期待

概要

東京工業大学 生命理工学院の伊藤由馬特任助教、十川久美子准教授、徳永万喜洋教授の研究チームは、新しい分子動態解析方法を開発。免疫T細胞の活性化を開始させる分子メカニズムを定量的に明らかにしました。

免疫システムの司令塔として働くリンパ球T細胞が休止状態から働くようになる際には、細胞表面で抗原を受容したという情報を伝える分子が集まることにより細胞活性化が始まることが知られています。

このような生命の働きが、分子のどのような動きや変化、分子間相互作用によって実現されているのかは、いまだに謎が多い。これらを明らかにする生命動態の分野が、ライフサイエンスにおける世界的な大きな潮流となっています。ここでは、光学顕微鏡で分子1個1個を直接観る1分子イメージング法が、重要な方法となっています。これまで、1分子イメージング法で、分子の動きの時間的な変化や、分子間相互作用を定量的に計測する良い手法がありませんでした。

今回、研究チームは、分子1個1個の軌跡を追跡し、分子の動きばかりでなく、他の分子との相互作用も、時間的・空間的な変化を解析できる新しい方法を考案し、定量計測を実現しました。

この方法を使って、免疫T細胞の情報伝達分子が2段階で活性化されること、分子集合体の周囲で活性化が調整されていることを明らかにしました。

今回考案された方法は、基本的な手法として、今後広く用いられ、多くの生命機能の分子メカニズム解明に大きな成果をもたらすことが期待されます。

本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(8月1日付け:日本時間8月1日)に掲載されました。

研究の背景と経緯

近年、生きている細胞内での分子を直接観察する分子イメージング技術の進歩により、生命の仕組みを分子のダイナミックな動きや分子間の相互作用として明らかにする、分子動態[用語1]の分野がライフサイエンスにおける世界的な大きな潮流となっています。2008年のノーベル化学賞「緑色蛍光タンパク質 GFPの発見と開発(下村脩博士他)」、2014年のノーベル化学賞「超解像顕微鏡の開発」の受賞に端的に示されています。

さらにこの分野は、ゲノム解析以降の種々の配列情報研究の長足の進歩を相補するものとして、一層重要性を増しています。データ科学やシステムズバイオロジー[用語2]の進歩により、分子の動きや相互作用を定量的に計測し、数値情報として解明することが求められています。

免疫細胞は、体を外敵から防御する免疫系として中心的な役割を担っています。病原菌・ウィルスや花粉などの異物が体内に侵入したことを察知すると、樹状細胞などの抗原提示細胞がそれらを取込み、抗原として細胞表面に提示します。リンパ球の一種であるT細胞は、提示された抗原を認識すると、一連の細胞内シグナル伝達系が働くことで細胞が活性化し、免疫系を活性化する司令塔としての役割を果たします。

研究チームは以前に、蛍光[用語3]を使って分子1個1個を光学顕微鏡で直接観察できる1分子イメージング顕微鏡の方法として、対物レンズ型全反射照明(TIRF)法[用語4]薄層斜光照明(HILO照明)法[用語5]を開発しています。

また、これらの顕微鏡法を使って、抗原を認識するT細胞受容体が核となって種々のシグナル伝達分子が数十~数百分子集合して「マイクロクラスター[用語6]」と呼ばれる集合体を形成することが、T細胞活性化の開始点であることを明らかにしています。T細胞活性化の仕組みの解明は、免疫制御に関するバイオ医薬品などの新しい展開に伴い、臨床応用においても一層の重要性を増しています。

研究の内容と成果

T細胞が、提示された抗原を認識するのは、T細胞膜表面のT細胞受容体(TCR)分子とCD3分子とからなるT細胞受容体複合体(TCR/CD3)が抗体と結合することから始まります。抗体とTCR/CD3複合体とが結合すると、CD3がリン酸化[用語7]されて活性化された状態になります。この活性化反応は、細胞膜にあるリン酸化酵素[用語7]であるCD45分子により制御されています。CD45は、活性化するばかりでなく、活性化を抑制する働きも持っており、精巧な免疫システムに重要な役割を果たしています。研究グループは、T細胞活性化の開始の仕組みを明らかにするために、CD3とCD45に注目しました。

研究グループが独自に開発した1分子イメージング顕微鏡を用いて、CD3分子、CD45分子、マイクロクラスターを生きた細胞の中で同時に1個1個鮮明に観察しました(図1、2)。平面上の人工の細胞膜[用語8]の上で細胞を活性化しているので、細胞内での本来の動きが観察されます。

T細胞活性化のシグナル伝達分子動態を可視化するための観察方法

図1. T細胞活性化のシグナル伝達分子動態を可視化するための観察方法

本研究では、抗原提示細胞の代替として人工の細胞膜(脂質二重膜)を用いた。脂質二重膜に結合させた細胞刺激用の抗CD3ε抗体(CD3εはCD3を構成するサブユニットの一つ)により、T細胞の細胞膜にあるT細胞受容体複合体(TCR/CD3)が数十~数百分子集まりマイクロクラスターを形成し、T細胞を活性化させる。この活性化反応は、膜タンパク質であるリン酸化酵素CD45分子により制御されている。脂質二重膜を用いることにより、シグナル伝達活性化における分子の動きを、細胞本来のまま観察できる。マイクロクラスターは、緑色蛍光タンパク質GFPをつなげたCD3ζ(CD3ζはCD3を構成する別のサブユニット)により可視化した。CD45およびCD3は、橙色蛍光標識した抗CD45抗体(青色で図示)と赤色蛍光標識した抗CD3ε抗体により、個々の1分子を可視化。全反射照明法を用いており、鮮明な画像が得られる。

3色同時1分子イメージング蛍光顕微鏡画像

図2. 3色同時1分子イメージング蛍光顕微鏡画像

個々の点はそれぞれ、青色:CD45 1分子、赤色:CD3 1分子、緑色:T細胞受容体マイクロクラスター1個。バーは5 μm(ミクロン)。動画として録画されたものの、ある時刻での画像。なお、CD45は橙色の蛍光で標識されているが、画像は識別のために青色で表示している。

得られた動画中の分子1個1個の位置を正確に求め、時間とともに動いてゆく様子を、軌跡として追跡します(図3)。従来の解析方法では、1つの軌跡の全ての点を一度に使うので、1つの軌跡から1個のデータしかとれず、また、途中で動き方が変化するために正確な数値が求められませんでした。

1分子軌跡追跡の例

図3. 1分子軌跡追跡の例

マイクロクラスターの画像(白黒、白がマイクロクラスター)の上に、CD45(青)とCD3(赤)1分子の軌跡を重ねてある。軌跡の各点は、動画フレーム間隔(33.33 ms)の時間ごとでの分子位置を示す。矢印は、軌跡がマイクロクラスター内に入っている部分を示す。バーは1 μm。

今回新しく開発した方法(移動部分軌跡解析、moving subtrajectory analysis)では、軌跡の一部(部分軌跡、subtrajectory、図4の例では11点)のみを使って動きに関する数値(拡散係数[用語9]など)を求め、さらに、部分軌跡を1点ずつずらしながら解析を繰り返します。これにより正確にかつ多くのデータが得られます。

今回開発した移動部分軌跡解析(moving subtrajectory analysis)法の模式図

図4. 今回開発した移動部分軌跡解析(moving subtrajectory analysis)法の模式図

軌跡の一部(部分軌跡、この例では11点)のみを使って動きを解析する。さらに、部分軌跡を1点ずつずらしてゆきながら解析を繰り返す。こうすることで、時間的な変化が追えるとともに、場所(この例ではマイクロクラスター内・境界・外)による違いも数値として明らかにできる。

この新しい解析方法により、分子の動きが、時間や場所によりどのように変化してゆくかを、数値情報として追うことが初めて可能となりました。そればかりでなく、分子が他の分子と結合する速さと解離する速さとを1分子の動きのみから求めることが初めて実現しました。

この解析を用いて、次のことがわかりました。

1.
マイクロクラスターは、分子が柔らかく結合し合ってできて、ナノレベルで分子密度に濃淡があり、マイクロクラスター内を分子が動くことができる。
2.
抗原を受容する複合体構成分子CD3も、シグナル制御分子CD45も、マイクロスターの内・境界・外のどこででも、結合してゆっくり動く状態と、結合せずに速く動く状態とがある。マイクロクラスターの外にも、ナノレベルの小さなクラスターがあることを示唆している。
3.
CD3もCD45も、速い結合解離を繰り返す一時的な結合状態と、安定な結合状態の2つの状態がある。マイクロクラスター内では、両分子とも、結合が促進され安定化されている。
4.
CD45のみは、マイクロクラスターの境界領域でも結合が促進されており、シグナル制御分子としての特徴を反映している。

このような分子動態と相互作用の詳細を定量的に明らかにしたことは、生命の仕組みの分子メカニズムを解明する上で、画期的な成果と言えます。

今後の展開

今回考案された方法は、分子動態と相互作用を定量的に解明する基本的な手法として、今後広く用いられると考えられます。

また、細胞表面での反応に限らず、生きた状態の細胞内部での仕組みにも用いることができます。免疫細胞に限らず、例えば、核内で遺伝子が発現する時にどのようなことが起こっているのかなど、種々の生命機能に適用できます。この手法で、生命現象の分子メカニズム解明に大きな成果をもたらすことが期待されます。

用語説明

[用語1] 分子動態 : 分子の動きや分子間の相互作用を、可視化したり定量的に計測して明らかにすること。

[用語2] システムズバイオロジー : 生命の仕組みをシステムとして統合的に理解することを目的とした研究分野。計算機によるシミュレーションにより生命現象を明らかにする研究が進められている。多種多数の生体分子の、空間的な配置、時間的な変化、多種分子間の反応や結合等に関して、生きた細胞や生体の中での数値情報を得ることが重要となっている。

[用語3] 蛍光 : 照明した光とは色(波長)の異なる光を出す現象のこと、もしくは出された光。蛍光を発する色素(蛍光色素)を用いて、観察対象を標識して見る顕微鏡法が蛍光顕微鏡法である。色の違いを利用して、標識した観察対象から出た蛍光のみを選び観察することができるので、背景光をカットして微弱にし、見たいもののみを鮮明に見ることができる。※名前が誤解をしばしば招くが、生物の蛍が光るのは生物発光によるもので蛍光現象とは異なる。

[用語4] 全反射照明(TIRF)法 : 試料と基板ガラスの境界面で照明光を境界面に平行に近い角度で入射すると、全反射が起こる。全反射の際には、試料側にごく薄く表面から深さ50~200 nm(ナノメートル)程度の近傍のみに光(エバネッセント光)が沁み出る。このエバネッセント光を蛍光の照明として用いる手法。対物レンズの縁にレーザー光を入射して全反射を起こし照明に用いる方法が、対物レンズ型全反射照明法で、余分な装置が不要なため普及している。全反射照明法を用いると、余分なところを照らさない局所的な照明であることと、照明光強度が入射光の約4倍強くなるため、鮮明な画像が得られる。

[用語5] 薄層斜光照明(HILO照明)法 : 対物レンズに照明光を入射するのに、全反射照明よりも少しだけ対物レンズ中心軸寄りにレーザー光を入射すると、試料の内部を薄く照明することができる手法。細胞内を鮮明に分子イメージングすることができる。対物レンズ型全反射照明法と同じ顕微鏡で行うことができ、局所的な照明であることと、照明光強度が入射光の2~3倍余り強くなるために、鮮明な画像が得られる。

[用語6] マイクロクラスター : T細胞が活性化する際に、T細胞膜に形成されるT細胞受容体複合体(TCR/CD3)の数十~数百分子の集合体。シグナル伝達分子も結合する。T細胞受容体分子複合体が、抗原提示細胞により提示された抗原と結合すると、マイクロクラスターが形成される。これにより、T細胞受容体シグナルが伝達され、T細胞が活性化される。マイクロクラスターは、大きさを増しながら、細胞接着面の中心部分へと移動集積し免疫シナプスと呼ばれる構造を形成する。

[用語7] リン酸化、リン酸化酵素 : リン酸基を付加するのがリン酸化反応であり、この反応を生体中で触媒するのがリン酸化酵素でありキナーゼとも呼ばれる。シグナル伝達においては、タンパク質アミノ酸残基の水酸基がリン酸基で置換されリン酸化されることが、シグナルとして用いられている。

[用語8] 人工の細胞膜 : 人工的に作成した脂質二重膜をカバーガラス表面上に一層のみ敷き、脂質二重膜中に必要なタンパク質等の分子を埋め込んで、細胞膜の代替としたもの。脂質二重膜は、膜中や膜上の分子が自由に動くことができるので、膜分子の動きを細胞本来のまま観察することができる。一層の脂質二重膜を均質にガラス表面上に形成するためには、通常特殊な装置と熟練とが必要とされるが、本研究では、研究グループが以前に開発した簡便な方法を用いて、人工細胞膜法研究の難点を克服している。

[用語9] 拡散係数 : 分子が拡散により広がってゆく速さを数値化したもの。数値が大きいほど、速く拡散することを意味する。分子はランダムな熱運動(ブラウン運動)をしながら拡散してゆくが、分子の移動距離を二乗した平均値は、拡散係数と時間とに比例する。アインシュタインは、単純な拡散の場合には、拡散係数は分子の直径に反比例することを示した。なお、拡散係数はマクロな現象で定義され、物質が拡散する際の濃度の時間変化の大きさを表す係数(拡散方程式の係数)としての意味がある。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Multi-color single-molecule tracking and subtrajectory analysis for quantification of spatiotemporal dynamics and kinetics upon T cell activation
著者 :
Yuma Ito, Kumiko Sakata-Sogawa, Makio Tokunaga
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

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東京工業大学 生命理工学院 教授
徳永 万喜洋(とくなが まきお)

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東京工業大学・秋田大学・秋田県医師会の三者間連携協定キックオフフォーラムを開催

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会場の様子
会場の様子

7月25日、東京工業大学、秋田大学、秋田県医師会の三者は、3月29日に締結した連携に関する協定のキックフォーラムを秋田大学で開催しました。 連携協定はそれぞれの持つ教育・研究・医療に関する技術や経験を生かし、医理工分野における連携を強化することで、我が国が直面する超高齢化社会への対応と国民の長寿・健康に資する取り組みを推進するために締結されたものです。

  • 東京工業大学の三島良直学長
    東京工業大学の三島良直学長
  • 秋田大学の山本文雄学長
    秋田大学の山本文雄学長

「長寿・健康研究教育拠点形成を目指して」と題して開かれた本フォーラムでは、始めに各機関代表および来賓から挨拶がありました。まず、東京工業大学の三島良直学長から「理工系の技術を網羅し、最先端の研究を行っている東京工業大学の強みを活かし、地域課題に取り組む二者と緊密に連携することで社会への波及を目指したい」との意気込みが語られました。秋田大学の山本文雄学長は、「今後、連携の具体的な動きを多方面で進めていく予定としており、今回のフォーラムを契機として、自治体・企業等の方々とも協力していきたい」と話しました。続いて、秋田県医師会の小玉弘之会長は、「高齢化の先進県である秋田県の現状を逆手に取り、全国的な先行例となるような秋田モデルの構築を図りたい」と述べました。来賓挨拶では、秋田県の堀井啓一副知事から「健康寿命日本一を目指す秋田県において、本協定は大きな意味を持つ取り組みと考えており、県としても全面的に協力・応援していきたい」とのお話がありました。

  • 秋田県医師会の小玉弘之会長
    秋田県医師会の小玉弘之会長
  • 来賓の堀井啓一秋田県副知事
    来賓の堀井啓一秋田県副知事

続いて、東京工業大学および秋田大学の教員から「先端共同研究による医用工学のイノベーション」「非接触型振動センサーによる心拍・呼吸遠隔管理システム」「微生物を活用した健康・長寿食品の研究開発について」など、実際の連携プロジェクトに関する説明が行われました。参加した自治体・企業関係者らは、新たな健康・医療・福祉関連技術の開発・実証・実用化に向けた情報に関心を寄せていました。

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Tel : 03-5734-2975

欲しいものだけを合成する新触媒 ―医農薬からバイオマスの高付加価値化まで―

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要点

  • 様々な芳香族アルデヒドから芳香族アミンだけを合成する触媒を開発
  • 開発触媒は性能劣化無く、繰り返し使用できる分離回収が容易な固体材料
  • 開発触媒によって、糖由来の化合物から高付加価値ポリマー原料の製造に成功

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の原亨和教授、鎌田慶吾准教授、喜多祐介助教らは「ルテニウム-酸化ニオブ複合体触媒」(Ru-Nb2O5[用語1]が他の触媒とは異なり、複素環式芳香族化合物[用語2]を含む様々な芳香族アルデヒド [用語3]から有用な芳香族アミン[用語4]だけを合成できることを発見した。この触媒は多様な芳香族アミンを選択的に合成できる。また、糖由来の化合物から強靭かつ耐熱性の高付加価値ポリマー「アラミド」の原料を効率的に製造できることがわかった。

原教授らはRu-Nb2O5が電子を与える力を弱めることができることに着目し、副反応をほぼ完全に防ぐことに成功した。このアプローチは芳香族アミンの製造だけでなく、再生可能なバイオマスの利用に一石を投じると期待される。

医農薬、ゴム、ポリマー、接着剤、染料などの様々な化成品に使われる芳香族アミンは重要な化学品である。しかし、これらアミンを芳香族アルデヒド原料から製造する還元的アミノ化[用語5]において、従来の触媒は電子を与える力が強く、芳香環の分解、副生物の生成を完全に防ぐことはできなかった。このため、製品の精製に多大なエネルギーが必要となり、コストを押し上げていた。

研究成果はJST ALCAにおいて得られたもので、「米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)」オンライン速報版に7月31日に公開され、正式版は近日中に掲載されます。

研究成果

同研究グループは、構築したルテニウム-酸化ニオブ複合体触媒(Ru-Nb2O5)(図1)が、従来の触媒とは異なり、芳香族アルデヒドの還元的アミノ化によって有用な芳香族アミンのみを合成できることを発見した。

ルテニウム-酸化ニオブ複合体触媒(Ru-Nb2O5)

図1. ルテニウム-酸化ニオブ複合体触媒(Ru-Nb2O5

触媒の性能

図2. 触媒の性能

例えば、複素環式芳香族化合物であるフルフラール([用語3]参照)からフルフリルアミン([用語4]参照)を合成する場合、従来の触媒では原料の10%以上が使い道の無い副生物になっていた(図2)。こういった不純物を取り除き、フルフリルアミンだけを得るには多大なエネルギーが必要になる。

一方、開発したRu-Nb2O5ではフルフリルアミンの収量が99%に達した。また、様々な芳香族アルデヒドを原料とした有用芳香族アミンの合成でも同様の結果が得られた。このことは開発触媒を使うことによって、医農薬品から大量生産される化成品で幅広く使われる芳香族アミンの生産を限界まで高効率化できることを意味している。

また、開発触媒はプロダクトとの分離が容易な固体材料であり、繰り返し・連続的に使用しても触媒の性能は低下しないことを確認した。

さらに、同研究グループは開発触媒と既存技術を組み合わせることによって、これまで効率的に合成することができなかった高機能・高付加価値なアラミド樹脂の原料をバイオマスから高効率合成することに成功した(図3)。

バイオマスからのアラミド樹脂原料の生産

図3. バイオマスからのアラミド樹脂原料の生産

植物の大部分はブドウ糖の高分子「セルロース」で占められている。セルロースからブドウ糖を生産し、ブドウ糖を発酵させるとエタノールが得られる。このエタノールはバイオエタノールと呼ばれている。一方、ブドウ糖から芳香族アルデヒドの1つ「ヒドロキシメチルフルフラール」([用語3]参照)を生産し、これを芳香族アミン「アミノメチルフラン」([用語4]参照)に変換することができれば、化石資源を使うことなく強靭で燃えにくい高付加価値な高機能ポリマー「アラミド樹脂」を生産することができる。

しかし、これまでの技術の場合、アミノメチルフランの収量は50%程度であり、実用化の目処は立っていなかった。同グループは開発触媒と既存触媒技術を組み合わせることによってヒドロキシメチルフルフラールからアミノメチルフランを収率96%で合成することに成功した。これはバイオマス利用の一つのブレークスルーとなる。なお、同グループはブドウ糖からのヒドロキシメチルフルフラール製造でも世界最高性能の触媒を既に発表している。

このような開発触媒の高い性能は以下に記す新しい考え方とそれを実現する新しい設計に基づいている。

新しい考え方:これまでの還元的アミノ化促進触媒の開発指針は還元能力を強くすること、言い換えれば、水素を供与する能力を高めることにあった。確かにこの指針は有効だが、芳香族アルデヒドでは芳香環が還元されやすいため、触媒の水素供与能力を高めた場合、芳香環に結合したアルデヒドを還元するだけでなく、芳香環までも還元して壊してしまう。そこで、これまでの考え方とは逆に、触媒の水素供与能力を制御することを同グループは開発の指針とした。

新しい設計:ルテニウムのような遷移金属のナノ粒子は還元力が高い触媒であることが知られている。これらの金属ナノ粒子を触媒として使うには、金属ナノ粒子を固体表面に固定化する必要がある。自動車の排ガス浄化触媒を含めた多くの実用・商用触媒は金属ナノ粒子を固体表面に固定化した材料だ。

まず、同グループは、酸化マグネシウムやジルコニアのような塩基性の固体表面に固定化されたルテニウムは反応中に活性な状態(金属状のナノ粒子)にならず、金属ナノ粒子は中性~酸性の固体表面で安定化できることを明らかにした。そして、シリカやチタニアなどの固体表面に固定化された金属ナノ粒子は電子供与能力が高くなることを分光法によって明らかにした(図4左)。一方、金属ナノ粒子を酸化ニオブのような金属酸化物に固定化した場合、金属ナノ粒子の電子供与能力を弱めることが可能となり、水素供与能力を制御することで芳香族アミンの合成に最適な触媒作用を発現することがわかった(図4右)。

開発触媒のメカニズム

図4. 開発触媒のメカニズム

今後の展開

今回開発した触媒のもつ意義は、これまでの芳香族アミン生産を限界まで高効率化し、これまでできなかったバイオマス利用を可能にするだけに留まらない。神経作用薬、抗がん剤などの医薬品、殺虫殺菌剤を含めた農薬、肥料、油脂、ゴム・ポリマー、バイオ航空燃料といった多くの化成品が遷移金属の還元触媒能力を利用して生産されている。開発触媒のベースとなっている新しい考え方、新しい設計はこれらの化成品の生産を革新するポテンシャルをもっている。

本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。

科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ALCA(先端的低炭素化技術開発)outer

研究開発課題名:
「多機能不均一系触媒の開発」
研究代表者:
東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 原亨和
研究開発実施場所:
東京工業大学
研究開発期間:
平成28年4月~平成33年3月

用語説明

[用語1] ルテニウム-酸化ニオブ複合体触媒(Ru-Nb2O5 : 酸化ニオブの微粒子(数百ナノメートル)表面に金属ルテニウムナノ粒子(2~5ナノメートル)を固定化した材料。きわめて単純な手法で大量生産できる。

[用語2] 複素環式芳香族化合物 : 芳香族化合物とは、一般的にベンゼン環などの炭化水素のみで構成された環状不飽和化合物を指す。しかし、窒素、酸素、硫黄原子などの炭素以外の原子が入っている共役不飽和環も芳香族化合物である。これらは複素環式芳香族化合物と呼ばれる。下にその一例を示す。

  • ピリジン
    ピリジン
  • フラン
    フラン
  • チオフェン
    チオフェン

[用語3] 芳香族アルデヒド : ベンゼンを代表とする環状不飽和化合物にホルミル基が結合した化合物。それ自体、香料などに使われているが、多くの化成品の原料でもある。

  • ベンズアルデヒド
    ベンズアルデヒド
    香料(杏子)
    染料、医薬品の原料
  • フルフラール
    フルフラール
    熱硬化樹脂、ナイロンの原料
  • ヒドロキシメチルフルフラール
    ヒドロキシメチルフルフラール
    ブドウ糖から合成される
    高付加価値な化成品の原料

[用語4] 芳香族アミン : ベンゼンを代表とする環状不飽和化合物にアミノ基が結合した化合物。医農薬品から大量製造される化成品の原料として使われている。下にその一例を示す。

  • アニリン
    アニリン
    年間500万トン以上生産される合成ゴム原料
    • ドーパミン
      ドーパミン
    • アドレナリン
      アドレナリン

    神経伝達物質

    • ベンジルアミン
      ベンジルアミン
    • アドレナリン
      フルフリルアミン

    抗がん剤等の医薬品、様々な農薬と化成品の原料

  • アミノメチルフラン

    アミノメチルフラン

    強靭で燃えにくい高機能アラミド樹脂の原料。原理的にはブトウ糖から得られるヒドロキシメチルフルフラール(上記[用語2]参照)から合成できる。このため、再生可能なバイオマスを高付加価値なポリマーにする変換するひとつのルートとして期待されている。

[用語5] 還元的アミノ化 : アルデヒド、ケトンを1ステップでアミンに変換する反応の総称。アルデヒド、あるいはケトンを窒素源(アンモニアなど)と還元剤(水素ホウ素試薬など)に接触させることによって反応が進む。触媒の存在下、水素を還元剤として用いる反応はアミン類の工業的合成法として最も有効は手法の一つ。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Electronic Effect of Ruthenium Nanoparticles on Efficient Reductive Amination of Carbonyl Compounds
著者 :
Tasuku Komanoya, Takashi Kinemura, Yusuke Kita, Keigo Kamata, and Michikazu Hara
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

原亨和 教授

E-mail : hara.m.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5311 / Fax : 045-924-5381

鎌田慶吾 准教授

E-mail : kamata.k.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5338 / Fax : 045-924-5338

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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